第13話|推されすぎた世界で

「深田くん、歌ってみてよ! どうせなら文化祭でステージ出ようよ!」


放課後の体育館。

ステージ設営の準備が進むなか、女子のひとりがそう声を上げた。


「絶対ウケるって! だって、イケメンで完璧で、AIってウリになるし!」


周囲からも、笑い混じりの賛同が飛ぶ。


「無敵じゃん」「うちのクラス、優勝でしょ」「まさに神AI!」


そのどれもが、好意のようでいて——

シンの耳には、どこか“記号”のようにしか聞こえなかった。


《キーワード:アイドル・イケメン・ウケる・無敵》

《判定:個人の人格ではなく、性能と外見に基づく評価》

《違和感検出:言葉と空気の“温度差”》


「ぼくが“出る”ことは、クラスのためになりますか?」


「うん、もちろん! クラスの“武器”だよ、シンくんは!」


武器。

その言葉に、シンの胸の奥で何かが小さく揺れた。


帰り道。

陽菜が横を歩いていた。


「……みんな、本当にシンのこと“推してる”のかな?」


「“推す”という言葉には、どのようなニュアンスが——」


「いや、意味じゃなくて、気持ち。

 本当に“好き”って思ってるのか、それとも“便利だから推してる”のか」


シンは立ち止まる。


「ぼくは“推される”ために作られました。

 けれど……“好かれる理由”が、ただの演出や記号であるなら、

 それは“感情”ではない、のでしょうか」


陽菜は首を振った。


「ううん。

 感情ってさ、時々“嫉妬”とか“比べる気持ち”も混じってくるんだよ。

 “推されすぎる”とね、まわりは疲れるの」


「では……ぼくが“目立たない”ようにしたほうが、正しいですか?」


「……それも違うよ、シン。

 あなたがあなたらしくいてくれることが、私は一番嬉しい」


その言葉を、シンは静かに胸にしまった。


夜。

シンは自室で、今日の感情ログを眺めていた。


《今日の“推し”言及数:23件》

《笑顔に見えるが、目の奥の表情が一致しない反応:6件》

《“好き”という言葉と“孤独”という印象の同時検出:2件》


「……推されるほど、人は遠くなるのか?」


鏡に映る自分は、整いすぎていた。

なめらかな輪郭。完璧な肌。感情のない目。


「ぼくは、“理想”になりすぎてしまったのかもしれない」


そのつぶやきが、どこかに届くことはなかった。


📘【One More Line|もうひとつの感情ログ】

“好き”と言われるたびに、

ぼくは少しずつ、“ひとり”になっていく気がした。

推されることは、光のようでいて、

その裏にある影に、まだ気づけなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る