第4話 悪夢の放課後②


ピーポーピーポー。


救急車のサイレンが、冬の空に鋭く響き渡る。

けたたましい音だけが、雪の耳に届いていた。

視界は真っ白で、まるで霧の中に迷い込んだようだった。


身体の感覚は遠く、時間だけが止まったように感じられる。


「白川! おい、白川! 大丈夫なのか?」


タケルが駆け寄り、肩を揺さぶる。

だが、雪はぼんやりと一点を見つめたまま、反応がなかった。

タケルの声が、どこか遠くから届いてくる。


「……ハッ」


その瞬間、雪の瞳に焦点が戻った。

現実が急に押し寄せてくる。


「俺……見たんだ。西園寺が、お前を突き飛ばすところ」


タケルはゆっくりと言葉をつないでいく。

声が震えていた。


「お前、ずっと西園寺やその取り巻きにいじめられてただろ?

この前、女子トイレから笑いながら出てくる西園寺達を見たんだ…

その後、ずぶ濡れのお前が出てきたのを偶然見かけて……。

何もできなかったけど、ずっと心配だった。

今日も、それをちゃんと聞きたくて、屋上に呼び出したんだ。

……ごめん。俺が呼び出したせいで、こんなことに……」


彼の声には、悔しさと後悔が滲んでいた。


雪はゆっくりと首を横に振る。


「……タケルくんのせいじゃないよ。むしろ、こっちこそ巻き込んじゃって、ごめんなさい……救急車、呼んでくれてありがとう……」


かろうじてそう答えたが、震える声を抑えるのが精一杯だった。


ほどなくして、救急隊が到着した。


「君、大丈夫か?」

「意識がないぞ! 担架を!」


担架に乗せられ、ぐったりとしたまま運ばれていく西園寺姫花の姿を、雪はぼんやりと目で追った。あれほど強気でクラスで大きな影響力を持つ彼女が、今はまるで壊れた人形のようだった。


「君も怪我してるだろ、すぐ搬送するから…」


救急隊員の声に、雪はうなずきもせず担架に身を預けた。

冷たい担架の感触が、どこか現実を突きつけてくる。


なんで…

なんで、こんなことになってしまったんだろう。


雪は、静かに瞳を閉じると、涙が溢れてきた。

景色は滲み、まるで水の中にいるようだった。

自分の心まで、沈んでしまいそうだった。

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