第14話 乙女心に揺れる空



「きゃー、可愛いー♡」



まず訪れたのは雑貨屋さん。

ネリアちゃんの感性は至極真っ当で、そういう物に疎い私ですら可愛いと分かるヘアピン群にメロメロだ。



「買ってあげようか?」


「え!? いえいえ、流石にそれは……懐事情は私も理解してるつもりですし」



そりゃ私達はバイトしてる暇なんて無いからお金はお小遣い頼りだ。だけど……



「そんな高い物でも無いし。折角のデートなんだから格好付けさせてよ」


「そういう事でしたら……お言葉に甘えさせて頂きます」



ネリアちゃんは少し迷う素振りを見せながらも、白百合飾りのヘアピンを手に取った。



「うん。じゃあレジに行こうか」



お会計をすませて、ネリアちゃんの要望でその場でヘアピンを着けさせてもらった。

近くで見ると益々可愛く見えるなこの子……


その後はネリアちゃん立っての希望でパンケーキ専門店で昼食。

私より小柄なのに同じぐらい食べるのは流石アスリート。

それからスポーツ用品店を巡ったりバッティングセンターで軽く打ち込んだり。


そうこうしている内に(ネリアちゃんとのバッティング勝負に白熱しすぎて)気付いたら辺りはすっかり夜に。



「わぁ……!」


「どう?」


「すっごく綺麗です! まさか火夏先輩にこんな素敵な夜景スポットに連れて来ていただけるなんて。

雰囲気もあって、まるで物語のワンシーンみたいで……はぁ、幸せです♡」



そう言って感極まったかのようにネリアちゃんは私の腕に抱き着いて来た。柔らかいのがはっきり伝わって来て心臓の鼓動が激しくなる。バレてないと良いけど……



「夢みたいです。火夏先輩と冷先輩の間にネリアが入り込む隙なんて無いと思ってたから……」


「……ねぇ、ネリアちゃん」


「はい?」


「ネリアちゃんって本当にボクが好きなの?」


「えー、今そんな事聞いちゃうんですか?」


「いや……正直ボクが好かれる理由が分からないんだ。

百合営業しただけで本当に好かれるなんて、そんな事あるのかなって。

ほら、冷もゆら先輩もネリアちゃんも魅力的だし……」


「その百合営業に本気だったからじゃないですか?」


「え……?」


「冷先輩は幼馴染みなので小さい頃からの積み重ねとかもあったかもですけど、少なくともネリアは火夏先輩との百合営業を通じて本気で好きになりました」


「そう、なの?」


「はい。だって火夏先輩いっぱい勉強して、考えて、努力したでしょう?

相手のパーソナルスペースに配慮した距離の詰め方。

相手を楽しませようとするトークや企画。

ファンが求める百合を突き詰める姿勢……

そんなの、好きになっちゃいますよ。少なくともネリアはそうです」


「それは、うん。頑張った甲斐があった……のかな」


「勿論です。ゆら先輩もきっとそうだと思います。

あの人に関しては火夏先輩が食らい付いてきたから……っていうのもあると思いますけど」


「食らい付く、ねぇ。投手としてレベルが違いすぎるんだけど」


「でもストレートは越えています。ストレートを磨いて磨いて磨き続けて……天才故に孤独に陥りがちだったゆら先輩はきっと嬉しかったと思いますよ」


「それ、直接ゆら先輩に聞いた訳じゃないんでしょ?」


「はい♪ ですが決して的外れじゃないと確信しています。

……同じ人を好きになったライバルですよ?

冷先輩の事とゆら先輩の事もネリアはちゃーんと観察しているのです」


「凄いねネリアちゃんは。……ボク、よくよく考えたらデートしてるのに他の女の子の解説させるって最低な事してる?」


「ネリアから言い出した事ですから。ですが、そうですね。

お詫びと言う訳では無いですが、約束のキス……お願いします」


「う、うん……!」



肩を掴んで正面に向き直ると、ネリアちゃんはそっと目を閉じてキス待ちの姿勢。

本当に可愛い。アヤはキリッとした美人で、ゆら先輩は中性的なかっこよさで、ネリアちゃんは小悪魔的な可愛さだ。

タイプの違う美少女達とキスをするなんて、少し前の私なら考えもしなかった。

……いや、だからこんな時に他の人の事考えちゃダメだって!



「……ん」



そんな煩悩を振り払うようにそっと唇を合わせる。

一瞬ネリアちゃんが押し返してプルンとした弾力を感じた。



「ふふ……火夏先輩?」



もう終わり?と言いたげに物欲しそうな目をするネリアちゃんだけど……流石にこれ以上はダメだ。

監督には触れ合うだけのキスだと約束した……と言う建前もあるし、私自身これより先に進むのは怖い。


だから、今日はここまでだ。



「今日はデートしてくれてありがとう。可愛いかったし、キス出来て嬉しかったよ」


「……もう、そんな事言うから皆を本気にさせちゃうんですよ?」


「え、ごめん……? でも本心だから」


「そーゆー所です」


「あぅ」



ほっぺをぷにっと突かれた。



「ふふ、最後に可愛い火夏先輩も見れましたしそろそろお開きですね」


「余り遅くなっても駄目だしね。途中まで送るよ」


「はぁい♪」



また甘えるように腕に抱き着いてきた。

キスした後だからかさっきより意識しちゃうけど我慢我慢……!


こうして、表面上は和やかな雰囲気に包まれながら私達は帰途に着いた。

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