第11話 牽制
「ぐっ……ふぇぇぇぇぇぇいっ」
練習が終わって、状況も落ち着いてきたから配信のプランを練って、凝った身体をグイッと伸ばす。
ウチ等は手痛い負けを喫したからもう暫く配信は控えるけど、それでも配信の準備はしておくべきだ。
特に3年生にとっては勝っても負けても大会が終われば後は配信や動画投稿ぐらいでしかアピールの手段が無い。
練習の成果や自分の強みを披露する人。
ゲーム実況や歌枠でファンを増やす人。
ゆら先輩も指名確実と言われているけど、ファンサービスの一環でドラフト直前まで配信をするみたいだし。
「まずは大会の感想配信はするとして……その後はちょいちょい投球練習配信かな。
完全にノーコンだとかメンタル弱いイメージ付いちゃっただろうし……うん?」
不意にスマホが振動し、画面にメッセージが表示される。
相手はネリアちゃん。文面は……『ホントですか?』の一文のみ。
「え、なになになに怖い」
『ホントってなにが?』と返すと、今度は通話のコールが鳴った。
「わわ!」
慌てて電話に出るとネリアちゃんは妙にじっとりと湿った声で話し出した。
『冷先輩とキスしたってホントですか?』
「えぇっ!? なんでそれを……!?」
『冷先輩の配信見てないんですか? さっき火夏先輩に慰さめられて、キスされたって話してましたよ』
「配信してんの!? ってゆーかあの事配信で言ったの!?」
『じゃあホントの事なんですね?』
「それはそう、だけど……」
ネリアちゃんと話ながらPCを立ち上げてアヤのチャンネルを開く。
確かに配信はしてて、私に励まされた事を話している。
チャット欄でもひなれいに言及するコメントが目立つし、ネリアちゃんの言う通りなんだろう。
SNSを開いたらその反応は様々。
《ひなれい結婚した》
《ひなれいはガチ》
《幼馴染みバッテリーてぇてぇ》
そんな肯定的なコメントもあれば……
《ミスを百合営業で誤魔化す気かよ》
《華月が負けてファンが凹んでる時によくやるよ》
《そういうやり方で好感度稼ぎはどうかと。本当の同性愛者の方の気持ちを考えた事がありますか?》
等々、批判的な意見もある。
それでなくても、これでは日向 火夏のカップリング相手が涼宮 冷に固定されかねない。
様々な客層を取り込む為に複数のチームメイトと百合営業をしながらも、特定のカップリングが強くなり過ぎない様に一定の距離を保ってきたのに……
「冷、なんで……負けた直後に惚気話なんてしたら叩かれる事ぐらい分かってる筈なのに……」
『それだけ嬉しかったんじゃないですか?
それと、多分他の人への牽制です。火夏は私の物よ! って』
「それじゃあ、冷がホントにボクの事好きみたいじゃん」
『火夏先輩は違うんですか? 恋愛的な意味での好意は1ミリも無いんですか?』
「だって、ボクのはあくまで百合営業で……冷だってそれは分かってやってて……
ネリアちゃんだってそうじゃないの? ボクとの百合営業がお互いのメリットになるから乗ってくれてたんでしょ?」
『そういう面も無くはありませんが……ネリアは好きになれない人と百合営業する程我慢強くないですよ?』
「そう、なんだ……」
『……火夏先輩はあくまで百合営業での関係性だと思っているみたいですが、初めてのキスだったんですよね?
慰めたいと、どれだけ大切に思っているかを伝えたいからと、無意識にキスしたんですよね?
だったら、そこには親愛以上の気持ちがあると思います』
「……うん」
『一度冷先輩とお話しするべきです』
「そうだね……うん。ありがとうネリアちゃん」
『どういたしまして♪ ふふ、ですが火夏先輩?』
「うん?」
『ネリアも……まだ諦めた訳ではありませんから。ではまた明日♪』
「え、ちょ待っ……!?」
切れちゃった……
アヤが実際にどう思っているかは未だ分からないけど、あの口ぶりだとネリアちゃんの方は私に好意を抱いてくれているみたいだ。
……どうしよう。でも、うん。
まずはネリアちゃんの言う通り、アヤと話をするのが先決だ。
「アヤの配信は……終わってる」
『話がしたい』とメッセージを送ると、すぐに了承の返事が来た。
隣の家にお邪魔して、アヤの部屋で二人っきりで膝を突き合わせる。
「ねぇ、アヤ。さっきの配信で……」
「えぇ。由香にキスされた事、配信で言ったわ。
叩かれる事も、由香に迷惑がかかる事も承知で言った」
「そっか……うん」
「……失望した? 嫌いになった?」
「そんな事ない! それだけは絶対にない!
ただ、その……アヤは私とどうなりたいのかなって……」
「正直自分でもよく分からないの。
由香との百合営業は心地良かったし、ひなれいのファンアートを見ると嬉しくなった。
日向 火夏が他の人と仲良くしてるのに嫉妬する心も確かにあった。
もしかしたら涼宮 冷に成り切ったが故の感情なのかもしれないけど……だとしても、涼宮 冷とはもう切っても切れない関係だから。
だから、この気持ちをそのまま伝えたかった」
「そっか。私はアヤの事も涼宮 冷の事も魅力的だと思ってる。
きっと心の中の日向 火夏も。でも、これ以上深い関係になるのが怖いって気持ちも……正直ある」
「それは当たり前よ。私達はまだ学生で、多くのファンが居る立場だもの。私が言えた事じゃないけど、付き合うとなると、ね」
「うん……じゃあ、さ。保留って事で良い…かな?
その、正式に付き合うかどうかはもう少し様子を見てからって言うか……」
「それが良いわね。私としても無駄に波風立ててしまった自覚はあるし。
何より、由香が付き合うという可能性を残してくれた事が嬉しい」
「じゃ、そーゆー事で! あ、でも百合営業はどうする? このタイミングでスパッと辞めたらガチじゃんてなるけど」
「それは……仕方ないわね。一応火夏のメインコンテンツだし。
そもそも私に日向 火夏の活動を制限する権利なんて無いし。
今まで通りで良いわ……嫉妬はするでしょうけど」
「あはは〜、うん。でも、まぁ……じゃあそーゆー事で! もう遅いから帰るね。また明日」
「えぇ、また明日」
ずっと一緒に居た幼馴染みからの告白に等しい暴露。
ちょっとビックリしたし、ネットでは変わらず賛否両論だ。
だけど、うん。少し気持ちはフワフワしてるな。
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