第7話 初試合


『さぁ! 華月学園対大河原高校の試合もいよいよ大詰めです!

5点リードの9回裏、霧雨 ゆらの後を継いでマウンドに上がるのは公式戦初出場の日向 火夏!

守備陣もそれぞれキャッチャー、涼宮 冷。

ショート、ネリア・エバーグリーン。

センター、天城 水月に代わっています』



深く息を吐いてマウンドを踏み締める。

3Dアバターで野球をする為の専用スタジアム。

精密機械に影響を及ぼしにくい人工土と、選手の脚を守る柔らかい人工芝。

機器の温度を下げる為に冷房がガンガンに効いた屋内スタジアム……それが今の時代の女子野球の戦場だ。


スタジアムに響き渡る大歓声。

視線を横に向ければ満員になったスタンド。

更に視線を動かすと、追いきれない程のスピードで流れるチャット欄。


このスタジアムに観客席は無い。モニターの映像で客席の奥行きがあるように見えるだけだ。

だけど、確かに彼等はそこに居る。

アバターを操り、バーチャル球場に足を運び、アバターの視線を通して私達を見ている。


昔はライブ映像しか視聴する手段が無くて、今でも観やすいライブ映像を好む人は沢山居る。

けれどそれと同じぐらい、熱を、空気を、臨場感を求めてアバターで来場する人も大勢居る。

そしてそういう人達はマイクを通じてリアルタイムの歓声を私達に届けてくれる。



「……燃えるね」



脚を上げて、腰を捻り、投球モーションに入り、投げる。



『ストライク!』



球審のコールが響いた瞬間、スタジアムに騒めきが走った。

何故? とは思わない。視聴者の感情がチャット欄に表れているから。



《140!? え、火夏ちゃんまだ2年だよね!?》

《ゆらさんが直球を褒めてたけどコレ程とは……》

《取り敢えず140円投げるわ》



投げ銭ありがとう! 未成年だと禁止されてるから初の投げ銭だ。

もっともこの試合の投げ銭は全部運営に持ってかれる。

まぁ、機器の維持費や運用費を考えたら至極当然ではあるんだけど。


ともあれ私の自慢のストレートは見せられた。後はキッチリ抑えるだけだ!



『打ったーーー!!』


「あっ」


『あぁっとしかしネリア・エバーグリーンがファインプレー! 流石の守備力です!』



危なっ! ネリアちゃんに右手を上げてお礼を伝えると、彼女もウィンクで応えた。

ちょっと油断したな……もっと丁寧に投げないと。



『平坂打ったが……センターフライ。天城 水月悠々とキャッチ! これで2アウト!』



上手く詰まらせた。後1人だ……!

アヤが示したのは外角高め。



「ふっ……!」


『ストライーク!』



バンッ! というミットを打つ音が心地良い。

次は外角低めにチェンジアップ。



「くっ……」


『ストライッ!』



空振り。まだノーボールだけど、これで外すなんて事はしない。

私が常に狙うのは三球三振なんだから。

アヤが示したのは内角低め。厳しいコースだ。



「でも……!」



足を踏み込んで、思いっきり腕を振って、力いっぱい投げ込む!



「……ッ」


「ストライクッ! ゲームセット!!」



最後は空振り三振で締め!

高めに浮いちゃったけど、それでも空振りを奪えたのは上々だ。



「こら」


「痛っ」



まぁ、要求通りに投げれなかったからアヤにお尻を抓られはしたけどね!



※※※※※



「こんばんはー! 華月学園野球部所属の日向 火夏です!」


『同じく、涼宮 冷です』


『同じく! ネリア・エバーグリーンですっ!』


『同じく……天城 水月、です……』


「ボク達ー?」


「『華月学園ベンチ組でーす!』」



試合を終えたその日の夜。

配信を始めると、案の定普段よりも多くの視聴者やコメントが流れてきた。

ベンチの人は他にも居たけど1、2年なのは私達だけだし、4人共試合に出れたのでセットで括りやすい。

何より、普段配信に消極的な水月ちゃんを引っ張り出せたのが大きい。



「今日はですね、ベンチメンバーで雑談配信しよーと思います! 大会期間中はあんまり長時間配信は出来ないからね」


『そうね』


『ざつだん……なにを話せば良いのか……』


『そんな緊張しなくても大丈夫ですよ水月ちゃんっ!

試合への想いとか感想とか……そういうので良いんです』


『それだけで、良いの……?』


「もちろん! 水月ちゃんのファンは水月ちゃんの気持ちを知りたい筈だよ」


『私の気持ち……楽しかった』


『緊張はしたの?』


『それは……大丈夫でした。野球の事なので』


「頼もしい」



水月ちゃんはお喋りとか人と接するのは苦手だけど、野球となると途端に好戦的になる。

表面上は無口無表情で分かり難いけど、あれで結構ガッツ溢れるプレーをする子だ。



『私は概ね満足ね。自分の仕事は果たせたと思う。問題は私の相方ね』


「な、なにおう!? ボク今日は三者凡退だったじゃん!」


『貴女なら三者三振を目指すべきよ。三者凡退と言っても、一つはネリアの守備に助けられた結果じゃない。

しかも結構投げミスも多かったしね。

何よ最後の球。思いっきり浮いてたじゃない』


「うわーん! 嫁がイジメるよー!!」


『よしよし、大丈夫ですよー? どんな球が来てもネリアが取ってあげますからねー?』


「それってボクが打たれてるって事じゃん!」



あはは、と一笑い。

私が騒いで、アヤが冷たくツッコんで、ネリアちゃんが慰めて、水月ちゃんは時々天然ボケで。

私達4人のトークは意外にもテンポ良く回った。

今回のコラボは大成功だね!

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