第2話 百合営業


「分かった! じゃあ何でも言う事聞くからさ〜! 機嫌直してよー!」


『……本当に?』


「……え?」


『本当に何でも言う事聞くの?』


「え、まぁ……出来る事なら?」


『じゃあ今度、一緒に静岡ティーパーティーズの試合見て』


「それだけで良いの?」


『火夏の家でね』


「う、うん。それぐらいなら……」



《おうちデートキターーー!!》

《ただイチャつきたかっただけか》

《嫉妬する冷ちゃん可愛い……》



『私ね、ティーパーティーズのファンなの。特に4番の神崎選手が好きね』


「あー、凄いよね。昨年のホームラン王! 現時点でもホームラン数トップだし。

確かホームラン打った時の投げ銭は全部神崎選手に行くって契約なんだよね。

この前の逆転サヨナラ満塁ホームランの時なんて、それだけで1000万以上稼いだって言うし……」


『幾分はVVBに吸われるから額面通りでは無いにしても、それを差っ引いた額が神崎選手に入った事は確かね。

本当に素晴らしい人だわ。ファンサにも積極的だし、野球選手としてもVtuberとしても“とても尊敬”しているわ』



……うん? アヤの奴、やたら神崎選手への賞賛を強調しているような……



……あ、そーゆー事か。



「なーんか、神崎選手に妙にお熱じゃない?」


『当然でしょう、あんなに素晴らしい選手なんだもの』


「ホントにそれだけ? 恋愛的な意味で好きとか無い?」


『……そうだと言ったら?』


「え⁉︎ だ、ダメだよ! 冷はボクの嫁なんだよ!? そんなの……ダメだよっ!!」


『ふふ……冗談よ。今は火夏の子守りで精一杯だもの』


「ほ、ホントに? 絶対他の人を好きになったりしない?」


『当たり前じゃない。それとも、自分の女房役がそんなに信用出来ない?』


「そんな事無いよ! アヤがボクに嘘吐いた事なんて一回も無いし!」


『でしょ? だからそんな不安そうな顔しないの』


「うぅ〜……」



つまりはそーゆー事だ。

日向 火夏も嫉妬しなさい、と。

確かにこれならお互いが嫉妬し合ってる良いシチュエーションになる。



《反撃食らったなw》

《火夏も火夏で重いな……》

《お互い根っこの部分では執着し合ってるの好き》



『あら、もうこんな時間……そろそろ終わりましょうか』


「確かに……それでは皆さん、名残惜しいですがまた次回お会いしましょー! 今回の配信は日向 火夏と……」


『涼宮 冷でお送りしました。今後も私達、そして華月学園野球部の応援をどうか宜しくお願いします。それでは……』


「『お疲れ様でしたー!』」



《おつかれー》

《楽しかったぞ〜》

《相変わらずてぇてぇだったw》



※※※※※



「ふぅ……お疲れー」


『お疲れ様。今日も良かったわよ』


「ありがとー……んふふ」


『何よ?』


「いやー、まさか私に嫉妬するよう仕向けるなんて……アヤも百合営業上手くなったなって」


『1年の頃からコンビ組んでるもの。最初由香に百合営業しよって言われた時はビックリしたけど……』


「あの頃は渋ってたよねー」


『……私だって自分自身の野球と配信力でプロになるつもりだったもの。

まぁ、由香の言う百合営業も馬鹿に出来ないって言うのも今となっては分かるわ。

SNS見てる? “ひなれい”がトレンドに上がってるわよ』


「え? うわーホントだ! こりゃファンアートも描かれちゃうかもね」


『そうやって話題にして貰う為にやってるんだもの』


「クールだなーアヤは。初めての涼宮 冷のファンアート、プラベアカでいいね押したの知ってるよー?」


『別に……嬉しくない訳じゃないし』


「にひひ、素直じゃないなー」


『……ねぇ、由香』


「んー?」


『もし私が本当に神崎選手に恋してる……って言ったらどうする?』


「え? まぁ……良いんじゃない? 実際選手としても人間としても魅力的な人だし、アヤが好きになるのも納得」


『ただの例えよ。でも、そう……分かったわ』


「え、なになに? 怖いんだけど……」


『何でもない。じゃあ私はそろそろ寝るから。由香も夜更かししないで早く寝なさい?』


「え、あ……うん。おやすー……」


『えぇ、おやすみなさい』



アヤとの通話が切れた事を示す画面を見ながら、私はさっきのアヤの言葉を思い出す。



「どーしたんだろ?」



そう疑問を問い掛けても、切れたマイクの向こうからの返事は無い。



「……ま、秀才の考えてる事なんて私が分かる訳無いか。軽くエゴサしてから寝よっと」



ベッドに潜り込んで、スマホを弄りながらSNSで『ひなれい』のワードを検索してみる。



「うんうん、上々上々! やっぱひなれいは鉄板カプだからなー」



ただ、中には少数ながら『ひなれい』否定派も居る。

いや、正確には他のカプも好きな人、か。

同じ学校のゆら先輩に後輩のネリアちゃん。

ライバル関係であるベラとの絡み……それ等に需要がある以上はバランス良く応えていかなきゃね。



「ゆら先輩とネリアちゃんとはコラボの予定があるし、ベラは……忙しいって言ってたから厳しいかな。ふぁ……」



そろそろホントに良い時間だ。

明日も朝から部活だし、寝るとしよう。



「おやすみ私。おやすみ火夏」

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