これまでの聖剣争奪戦
「覚えていろよ、須藤! 絶対にお前は……!!」
「待てこのクソ上司! ぶっ殺してやる!」
頬を抑えながら、走り去っていく大島を追いかけようとする俺だったが、クレアに腕を掴まれる。
「落ち着け、ケンジ。やつに指示を出していた邪教徒が潜んでいるかもしれない」
そうか、邪教徒は魔法を使う危険なやつらだ。下手したらマルコスのやつが……。そう思うと、確かに深追いは禁物と判断すべきかもしれない。
「……どうして、俺がここにいるって分かったんだ?」
一緒に屋敷へ帰りながら、決まり悪さを覚えつつ、俺はクレアに尋ねた。
「屋敷を見回っていたら、不審な動きをするものがいてな。尋問したら邪教徒だと分かった。おそらく、マルコスの手下だ。ケンジの身に何かあったらいけないと思って部屋を訪ねたら……」
そこから、屋敷を出て探してくれたのか。大島のやつが闇夜の中でぽんぽんと炎を投げたから、ある意味見つけやすかったかもしれないが……。
「悪かった」
「ん?」
「あと、ありがとう」
「……気にするな。私の方こそ、ケンジには重たい使命を背負わせている。命を懸けて守るのは、当然のことだ」
……なんだろう。ちょっとドキドキするんですけど。女に優しくされたの、何年ぶりだ??
いや、わかっているよ?
クレアは聖剣使いとして、俺を守るってだけで、優しくしているつもりはないってことくらい。
でも、あんな風に優しく微笑まれたら、ちょっと勘違いしちゃうじゃん!!
「あ、明日からは……特訓頑張るから!」
俺は胸のドキドキを誤魔化すように、思ってもないことを宣言した。だが、クレアは嬉しそうに「頼もしいな」と笑う。ああ……俺、完全にクレアに気に入られてようとしているわ。少しだけ、玲香と付き合うか付き合わないか、微妙だけど一番楽しかった時期のことを思い出してしまった。もう絶対に帰ってこない、あの日のことを。
それから、俺はクレアの特訓を……いや、体罰を必死に耐えた。
「もうだめだ、死ぬぅぅぅ……」
特訓の途中、俺は何度も倒れた。スアレス邸の中庭で、青空を見上げながら、俺は何をやっているのだろうか、と少しだけ考える。
「だが、様になってきたぞ」
クレアが俺の視界に入ってきて、手を伸ばしてくれた。起こしてもらった上に、彼女は水が入ったグラスを渡してくれた。礼を言って飲み干すが、頭の中に浮かんだ疑問はもちろん消えていない。
「なぁ、クレア。めちゃくちゃ特訓しているけど……これって聖剣を抜くための特訓なのか?」
「……そ、それは」
やや視線を逸らしたような気がしたが、もしかしてこの女、俺に危険なことをやらせようとしていないか?
「なんだよ。もう逃げたりしないから、早く説明してくれ」
「……本当か?」
「うん」
深く頷いた俺を信じたのか、クレアは眉根を寄せつつも、どこか諦めたように溜め息を吐いて、特訓の意味について話してくれた。
「ケンジには聖剣争奪戦に参加してもらう」
「聖剣争奪戦?」
「そうだ。ここ、イリオヴァ王国にはハイ・アリストスと言われる位の高い家の中でも、より高貴な四つの家柄が存在する」
アリストスというワードは何度か聞いた。たぶん、貴族と同様の意味だろう。
「このハイ・アリストスは、魔力を保持する家系だ。魔力を保持するということは、聖剣を保持する権利があるとも言い換えられる」
「なんだ。じゃあ、俺以外の人間も聖剣を使えるのか?」
「いや、使えないだろう。だが、聖剣を手にしたことがない者からしてみると、そんなものは噂に過ぎない。スアレス家が聖剣を手放さない理由は、邪神討伐の手柄を独り占めするためだ、と勘違いしているのだ」
貴族たちの醜い嫉妬でもあるのだろうか。クレアは呆れたように肩を落とすと、今度は騎士らしい鋭い視線を正面に向けた。
「だから、ハイ・アリストスたちは聖剣争奪戦という決闘制度を設けた」
「聖剣を奪い合うってことか」
「そうだ。聖剣を持つスアレス家から、その所有権を奪うための決闘。それを申し込む権利が他のハイ・アリストスに与えられた。格の高い家から、アンドラージ家、ゴディネス家、トーレス家の順に、スアレスに挑戦する権利がある。各家は勇者を擁立して、スアレスの勇者に挑むはずだった」
「へぇ。じゃあ、アンドラージ家あたりは既に挑戦してきたのか?」
クレアは首を横に振る。
「もしかして、棄権か? じゃあ、その次のゴディネス家は?」
「まだどこの家も挑戦してきていない」
「はぁ!? どうして!?」
「スアレスには……オスカーがいたからな」
またオスカーか。あのエルシーネが惚れている野郎が、どんなものか気になるところだが……
ちょっと話が長くなってきたので、続きは次回にしてもらうとするか。
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