思わぬ再会

「お前が……聖剣使い??」


「な、何をやっているんですか大島部長」


俺と大島部長はお互いの顔を見て、開いた口がふさがらなかった。が、先に状況を飲み込んだのは、大島部長の方だったらしく、やつは笑い出した。


「なんだなんだ! 聖剣使いとか言うから、とんでもない剣士と戦わなければならないと思ったが……」



大島部長は俺を見て、さらに嫌な笑みを顔面に広げた。



「お前のような役立たず・・・・でよかったよ! 簡単な仕事になりそうだ」


「なんだと……?」



こいつ……俺のことを二度も役立たずと言いやがった。ゆるせねぇ。元の世界では上司と部下の関係だったし、面倒になるのも嫌だったから我慢していたが、ここは異世界だ。むしろ、チャンスなのでは??



「そう、殴ってやるための!」


「あぁ? なんだって?」



大島部長がわざとらしく耳に手を当てて聞き直してくる。



「大島部長……いや、大島! てめぇは生きていちゃあ行けない人間だ。上司として、社会人として……いや、人間としてクズなんだ。だから、ぶん殴ってやるって言ったんだよ!!」


「……あはははっ。やってみろ。やってみろよ!」



ああ、やってやるとも。俺は拳を握り、大島の方に歩み寄ろうとしたが……。


「だが、これを見ても同じことを言えるか?」


大島が手の平を差し出す。その手に卵を乗せるような調子ではあったが、その上に野球ボールほどの炎が灯った。



「も、もしかして……魔法??」


「その通り!! ボルガーノ教団とか言うワケの分からんやつらが、俺に力を与えてくれたのだ。貴様を抹殺するためにな!」



大島が投球のごとく炎を放った。


「うわぁぁぁ!!」


地味で小さい炎だ。でも、あんなの当たったら……最悪、火だるまになってしまうぞ!?



逃げ回るつもりだったが、日中の特訓のせいで全身は筋肉痛である。足がもつれてすっ転んでしまった。そんな俺の頭上を炎が通り過ぎ、すぐ後ろに落ちると、草原が一気に燃え上がる。


「あっつ!!」


すぐに立ち上がって逃げようとするが、足がもつれて上手くいかず、地面を這うしかなかった。そんな俺を見て、大島のやつは高笑いする。



「ほら、どうした須藤! いつも俺の前をうろちょろしやがって。本当に目障りなやつだったよ!!」


そして、次々と炎を投げて、俺の逃げ場を奪おうとした。


「くそぉぉぉ!! こんなことになるなら、聖剣を持ってくるんだった!!」


いや、持ってきたところでダメか。あいつ、魔力切れらしいし……。



「さぁ、須藤! 死ね! 火だるまになって、俺の前で踊れよ!!」


「ぎゃあああーーー!!」



再び大島が炎を投げつけてきたので、逃げ出すつもりだったが、足が滑ってコケてしまった。


「やばっ、死ぬ!?」


マジで死ぬと思った。だけど、炎は俺の目前で弾けて消滅した。もちろん、丸腰の俺にこんな芸当ができるはずがない。



「大丈夫か、ケンジ」


「う、うん……」



俺を守るように立っていたのは、クレアだった。大島が放った炎を剣で叩き斬ってくれたらしい。


「邪魔をするなぁーーー!!」


怒り狂ったのか、大島が次々と炎を投げつけてきたが、クレアは目にも止まらぬ神速の剣で、すべてを斬り裂いてしまう。散った炎が弱々しく舞い、草を燃やす。火は次々と燃え移り、草原を炎で満たすと思われたが、再びクレアが剣を振るうと突風が発生し、すべてを鎮めてしまった。


「す、すげえ……」


俺はクレアの剣に見惚れていた。それは、大島も同じようだったが、次第に怒りの表情へ変わっていく。どうやら、やつはこれだけ美しいものを認められないほど、プライドが荒れ狂っているようだった。



「まだだぁぁぁーーー!!」


もう一度炎を投げつけようと、手を開くが……。


「あれ?」



そこに炎は灯らない。もしかして……。


「魔力切れのようだな」


クレアの呟きに、俺は思わず口の端が吊り上がった。


「大島ぁぁぁ!!」



俺は一気に大島へ駆け寄り、目を見開くやつの顔面に拳を叩きつけてやるのだった。

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