第5話 ダンジョン探索

「凄い純度の魔鉱だわ」


「はは、こりゃすげぇ。いくらでも取り放題だぜ」


ダンジョンに入って早々、光で周囲を照らすと辺りには様々な色を持つ巨大な魔鉱が所狭しと並んでいた。


ダンジョンの造りを見渡せば墓石が無秩序に並び立ち、骸骨を模した塔、荒れた大地の上には無造作に髑髏が無数に転がっている。


悪趣味にもほどがある雰囲気だ。


しかし、そんなことはお構いなしにプリシラは目を見開き、バーストンは大笑いしている。


ランティスは平静を装いつつも、口元が緩んでいた。


「ふ、ふっふふ。やった、やったぞ。僕はとうとうやり遂げたんだ。これでハンターズギルドとこの世界に僕の名が残せるぞ」


アルベルトは歓喜に震えているが、端から見てその様子は狂気にも見える。


だけど、私は喜ぶ気になれなかった。


純度の高い魔鉱がこれだけあるということは、それだけ『魔力濃度が高い』ということだ。


つまり、このダンジョンは彼らS級ハンターですら見たことのないほどの高難易度ダンジョンということになるのではなかろうか。


「あ、アルベルトさん。確認は終わったんです。早く脱出しましょう」


「ミシェル、この期に及んで何を言っているんだ。ここは宝の山だぞ。きっと見たことのないような遺物オーパーツもあるはず。まだまだ探すぞ」


「で、でも……」


私が危険だと言おうとしたその時、足元が揺れ始めた。


地震かと思ったが、違った。


地面からぬっと腐った人の手や頭が出てきたのだ。


腐敗臭が鼻を突き、思わずたじろぐが、「なんだ。ただのゾンビじゃないか」とアルベルトが笑みを浮かべて剣を抜き、次々と現れたゾンビたちを切り伏せていく。


「ミシェル。俺の傍を離れるなよ」


「は、はい」


気づけばバーストンが私の背後に立っていた。


プリシラは炎魔法を用いて、ランティスは弓、剣、魔法を用いてゾンビたちを薙ぎ払っていく。


でも、ゾンビたちは際限なく呻き声と共に次々と湧いて出てくる。


「E級没落令嬢、さっさと補助魔法を発動しなさい。こいつら、弱いけど数が異常に多いわ」


「わ、わかりました」


プリシラの言うことを聞くのは癪だけど、そんなことは言っていられない。


ありったけの魔力を使い、私は補助魔法を発動した。


魔力がなくなって思わず膝を突いてしまう。


「へぇ、E級でも補助魔法は補助魔法というわけね。これならいけるわ。アルベルト、一気に焼き尽くすわ」


「わかった。全員、バーストンのところに集まれ」


アルベルトの指示でバーストンを中心に皆が集まると、プリシラが空高く跳躍して火魔法を発動。


爆音が轟き、ゾンビたちを一瞬で焼き尽くしてしまった。


「ふぅ、これで終わりね」


「お疲れ、プリシラ」


空から降りてくる彼女を、すかさずランティスが抱きかかえた。


私はバーストンの陰に隠れつつ、S級ハンターの力に目を丸くする。


ハンターズギルドの仕事でD~B級、極稀にA級に同伴したことがあった。


でも、S級ハンターの力は彼らとは比べものにならない。


これだけの力があれば未知のダンジョンを好機と捉えるのは当然だ。


もし、私にもこれだけ力があれば、彼らと同じようにこのダンジョンを恐れず、好機として見ていたはず。


お金のためだったから、深く考えたことはなかったけど、E級ハンターであることに初めて悔しさと虚しさを覚えて俯いてしまった。


「あれ、ゾンビの肉片が動いてる?」


私は自分の目を疑った。


焼き尽くされて焦げた肉片やアルベルトたちが切り捨てたゾンビたちの破片が一箇所に集まり始めたのだ。


「なんだかやばいぞ。プリシラとランティスは魔法を打て。僕も斬撃を飛ばす」


危機を察知したアルベルトがすかさず指示を出して間もなく、魔法と斬撃が集まって蠢く肉片を直撃。


爆音が轟き、爆煙が立ち上がった。


「……どうだ」


アルベルトが剣を構えて睨みをきかせたその時、爆煙の中から大きな赤い光が煌めいた。


次の瞬間、爆煙が狂風で吹き飛ばされるが、ゾンビ達の群れよりも強い腐敗臭が鼻を突いてくる。


何事かと前を見たその時、私は全身に戦慄が走った。


そこにいたのは全身が赤く、腐敗して爛れた肉に覆われ、一部は骨がむき出しとなったドラゴンだ。


四つ足で立ち、背中には穴だらけで大きな翼を持っている。


ドラゴンは私たちを赤い目で見据えると、耳をつんざく咆哮を轟かせた。


腐ってるはずなのに、どこからあれだけの咆哮を発しているのか。


あまりの声量に思わず耳を塞いでしまうが、アルベルトたちはにやりと口元を緩めている。


「怯むな。こいつが階層ボスだ。倒すぞ、お前たち」


アルベルトが先陣を切り、プリシラとランティスが援護。


アルベルトの体勢が崩れた時、プリシラとランティスが標的となった際は、盾を持つバーストンが引き受ける。


私は用意してもらった魔力ポーションをがぶ飲みして、ひたすらに補助魔法を発動しつづけた。



……どれぐらいの時間が経過したのか、気づけば魔力ポーションは残り一本しかない。


「アルベルトさん、魔力ポーションがもう残り一本しかありません」


「く、くそ。俺たちはS級ハンターだぞ。こんな腐った肉の寄せ集めに負けるわけがないんだ」


彼は舌打ちをして切り込んでいくが、ドラゴンの腐った肉を切ることはできず、むしろ弾かれてしまう。


ドラゴンは赤い目をにやりと細め、大口を開けた。


アルベルトを食べる気なの⁉ そう思った瞬間、ドラゴンの口から真っ黒な煙が周囲に吐き出された。


腐敗物や汚物を煮詰めたような激臭に、目、鼻、口、喉を襲われて咳き込まずにはいられない。


でも、私はハッとした。


これはただの悪臭や煙じゃない。


強力な毒気のある『瘴気』だわ。


過去にこれほど強力ではないにしろ、瘴気を持つ魔物と対峙したことがある。


瘴気の煙は吸うだけで対象の体力を奪うだけでなく、毒状態にしてしまう。


何より恐ろしいのは、瘴気を吸いすぎると呪われてしまい、一定時間、様々な感覚が急激に衰えて実力の半分も出せなくなってしまうことだ。


「皆さん、これは強力な瘴気です。私の傍に集まってください。補助魔法で浄化します」


「わかった、頼む」


アルベルトたちが私の傍に集まったことを確認すると、私は力を振り絞って浄化魔法を発動。


周囲の瘴気を無力化し、皆の毒気を抜いた。


「はぁはぁ。これで何とか大丈夫だと思います。でも、魔力ポーションはこれで最後。もう後がありません」


「……そうか、なら残念だが引き時だな」


「ち、しょうがないわね」


「残念だがやむを得ん」


「まぁ、命あっての物種だからね」


私の言葉にアルベルトが顔を顰めると、他の面々も悔しげな表情を浮かべた。


「アルベルトさん、皆さん。お力になれず申し訳ありませんでした」


「いや、君はよくやってくれたよ」


会釈する私に、アルベルトは目を細めた。


「渡した帰還石の使い方なんだが、少し魔力を注ぎ込む時間が必要なんだ。僕たちが時間を稼ぐから、君は少し離れた場所で使うんだ、いいね」


「はい、わかりました」


私が頷くと、アルベルトたちはドラゴンに立ち向かっていく。


最初は怪しいと感じたけど、それはきっと彼らの強さからくる自信の表れでもあったんだろう。


S級ハンターともなれば、どんな困難であろうと乗り越えていく存在なんだから。


私は少し離れた場所にあった岩陰に隠れると、先にもらっていた緑色の帰還石を鞄から取り出した。


「アウラ、レイチェル。お姉ちゃん、今日も生き抜いたからね」


魔力を帰還石に込めると、緑色の帰還石が赤く輝き始めた。


これで皆のいる場所に帰れる。


そう思った次の瞬間、帰還石が甲高い音を響かせて砕け散った。


しかし、私の身体は転移しない。


「あ、あれ……?」


困惑していると、ドラゴンの咆哮が轟く。


何事かと慌てて振り向けば、アルベルトたちには目もくれず、ドラゴンがこっちに駆け出していた。


「な、なんで、どうして⁉」


必死にドラゴンの突進を避けると、ドラゴンは壁に激突してそのまま埋もれてしまった。


死ぬところだった。


動悸が激しくて胸を押さえていると、どこからともなく笑い声が聞こえてくる。


振り向けば、アルベルトたちが私を指差していた。


「あっはは。いやぁ、本当によくやってくれたよ、ミシェル。君に渡した魔石は帰還石ではなくて『魔笛』という魔物を呼び寄せるものだ」


「え、どうして、なんでそんなことを」


「帰還石の使用に時間が要するというのは本当でね。君に時間を稼いでほしかったんだ」


アルベルトの言葉に嫌な予感を覚えつつも、私は彼らに向かって歩き出した。


「そ、そうなんですね。じゃあ、私も一緒に……」


「ダメよ」


プリシラが不敵に笑い、冷たく言い放った。


「だって、この帰還石で地上に帰れるのは四人までだもの。短い間だったけど、楽しかったわよ。E級没落令嬢」


「すまんが、これもまた運命。あのような魔物がいなければ、貴女は大金持ちになれただろう」


「まぁ、保険加入していたからね。君の家族もまとまったお金が手に入るから喜ぶでしょ」


「ちょ、ちょっと待ってください」


アルベルト、プリシラ、バーストン、ランティスが強い光に覆われていく。


私は駆け出した。


こんなところで死んでたまるか。


「待ちなさいって言っているじゃない。こんなの、こんなこと許され……あぐ⁉」


もう少しで光に手が届くと思ったその時、光の中から現れた火球が私を襲った。


プリシラの攻撃魔法だ。


私がその場で蹲って顔を上げると、彼女は口角を上げて笑っていた。


「うるさいのよ、E級没落令嬢。私たちはS級ハンターなのよ。E級とS級、どっちが命の価値が高いか考えればわかるでしょ。ちょっと珍しい補助魔法が使えたところで、貴女の代わりなんていくらでもいるの。でも、S級ハンターの代わりはいないのよ。理解してちょうだい」


「プリシラの言うとおりだ。帰還石は僕たちが用意したものだからね。君は自力で何とかするんだな。それ以外の魔力ポーション、保険代はもろもろ持ってやっただろう」


アルベルトの顔を見た時、私は思い出した。


こいつの目と笑い方、私たちを騙した奴らと同じなんだ。


「ふざけないで、S級ハンターだからなによ。それがそんなに偉いことなの。アルベルト、プリシラ、バーストン、ランティス。私は絶対に生き延びて、この杖で鉄槌を下してやるわ」


「はは、楽しみにしているよ。でも、まずは生き延びることだけを考えたほうがいいと思うよ。じゃあね、E級没落令嬢さん」


アルベルトが白い歯を見せた瞬間、彼らを覆っていた光が彼らと一緒に消えた。


ダンジョンを脱出したのだろう。

 

ふざけないで。


私が、私が何をしたっていうのよ。


私はただ、アウラをレイチェルを守りたかっただけ。


本当はこんなダンジョン、来たくなかったのに。


絶対に許さない。


生き延びて鉄槌を下してやるんだから。


私は服の袖で涙を拭い、当てもなく走り出した。

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