第4話 いざダンジョンへ
木々が生い茂る森の中。
新ダンジョンに向かう途中、丸縁サングラスをしたスキンヘッドで薄褐色肌の
男から自己紹介をさせられた。
彼の名は『バーストン・ダヴィネス』といって、大盾と剣を扱うS級ハンターだそうだ。
細い目で飄々とした優男は『ランティス・アイヴァン』と名乗った。
彼もS級ハンターで、弓と剣に加えて魔法も扱える魔剣士だそうだ。
攻撃魔法が扱えるS級ハンターというだけでも珍しいが、もっと驚いたのはランティスとプリシラが恋人ということである。
ランティスは口調こそ気さくな感じだけど、本当の性格はあんまりよくなさそうな気がしてならない。
「さぁ、目的の場所が見えたぞ」
先頭を歩いていたアルベルトがそう言って足を止めた。
「へぇ、あまり見たことないタイプのダンジョンね」
「うむ。定着型と聞いていたが、ぱっと見は突発型のように感じるな」
「定着型ダンジョンと言えば、大体が地下に続く洞穴が入口だけど。これは確かに珍しい」
プリシラ、バーストン、ランティスが何やら驚嘆した様子だ。
皆の最後方にいた私は、やっと追いついて、どれどれと目的地のダンジョンを見つめた。
「……でっかい扉ですね」
そこは木々が生い茂る森の中で、何故か不自然な大草原が広がっていた。
そのど真ん中に、荘厳とおどろおどろしさが入り交じった不気味な観門開きの巨大な扉がそびえ立っていた。
「油断せずに調査していこう。バーストン、悪いが盾を構えて先頭を進んでくれ」
「わかった」
「ミシェル、君は補助魔法を頼む」
「はい、わかりました」
アルベルトの指示で、バーストンが背負っていた大盾と武器を構えて先頭を歩き出す。
私はすかさず身体能力強化と防御力上昇の補助魔法を発動する。
がくんと魔力が持っていかれる感覚に、たまらず息が「ふぅ」と漏れた。
「あら、この程度の補助魔法で息が切れるなんて。E級没落令嬢は大変ねぇ」
「……そうですね。では、プリシラさんには補助魔法を掛けなくてもいいですか。E級で魔力量が少ないので、掛ける人が少ないと助かるので」
「あっはは、いいわよ。貴女みたいなE級の力に頼ることなんてないでしょうからね」
プリシラがにやにやと笑うなか、「二人ともやめないか」とアルベルトの剣呑な声が響いた。
「遊びじゃないんだぞ。あのダンジョン、あの構えからすると、S級ダンジョンかもしれない」
彼のS級ダンジョンという言葉を聞き、私以外、皆の目の色が変わった。
ダンジョンは規模の大きさ、採掘量、出現する魔物の強さで危険度が設定される。
ハンター階級と同じ六段階評価で、一番上がSで一番下がEだ。
S級ともなれば国の管理下に置かれることは必須。
場所や状況によっては、ダンジョン資源を巡って国家間の戦争が起きるほどだ。
そして、なぜ彼らの目の色が変わったのかといえば……。
「私たち、ついているわ。今ならあのダンジョンに入って漁り放題だもの」
プリシラが不敵に笑いながら舌なめずりをした。
そう、国の管理下に置かれるのはS級ダンジョンであることが確定した後だからだ
目の前にそびえ立つ扉のダンジョンはまだ未調査。
つまり、アルベルトたちが最初に入って見つけたものの一部を密かに持ち去ることも可能なのだ。
当然、そんなことをすれば本来であれば罪に問われる。
だけど、彼らはS級ハンターであり、その程度であれば黙認されるだろう。
私がすれば、絶対に断罪されるけど。
「そういうことだ。さっさと近寄って事を済ますぞ」
アルベルトの指示に従いつつ、バーストンを先頭にして警戒しながら近づいていく。
だが、特に脅威は見当たらない。
「……どうやら周囲に罠はないようだね。じゃあ、早速、ダンジョンに入ってみようか」
アルベルトがそう言ってダンジョンの扉に触れたその時、どこからともなく喉で発する笑い声が聞こえてくる。
何事かと周りを見やったその時、「扉に目と口ができたぞ」とランティスの声が轟いた。
はっとして見上げれば、確かに扉に不気味な目と口ができている。
扉はにやりと不気味に口角を上げると、「よくきたな」と切り出した。
「ここから先は呪いと祝福の鍛錬場。死が救いにすら感じる壮絶な呪いが挑戦者を襲うであろう。死を恐れる弱き者に告ぐ、命が惜しければ早々に立ち去れ。死を恐れぬ強き者に告ぐ、試練を乗り越えれば祝福を受けて強大な力を得られるだろう。二度と生きて帰れぬ覚悟があるならば、さぁ、入るがよい」
不気味な声が途切れると、誰も触っていないのに扉が大きく開き始めた。
でも、開いた先に見えたのは道ではなく、真っ黒な渦である。
高ランクダンジョンで見られるという『ゲート』と呼ばれるものだろう。
私が見たのはこれが初めてだった。
「……あっはは。あっはははは」
急に聞こえてきた笑い声にはっとすれば、アルベルトが歓喜の表情で笑っていた。
「やったぞ。僕たちが未開拓S級ダンジョンの初挑戦できる機会にようやく恵まれたんだ」
「この日をどれだけ待ちわびたことかしら」
「あぁ、待ったかいがあった」
「ふふ、同意見だよ」
プリシラ、バーストン、ランティスも歓喜の表情を浮かべている。
だけど、私は冗談じゃない。
例え、S級ハンターと一緒でもこんな危険なダンジョンなんかに入るなんて御免だ。
「待ってください。入るまでもなく明らかな高ランクダンジョンです。私たちの目的は調査なんでしょう。なら、後は国とハンターズギルドに……」
「うるさいわよ、E級没落令嬢」
「が……」
任せましょう、そう言おうとした瞬間、プリシラが私の鳩尾に拳を入れていた。
苦しくて両膝を突くと、次いで破裂音と共に頬に強い衝撃が走る。
彼女に平手で打たれたのだ。
「貴女はただ、黙って私たちについてくればいいのよ。大丈夫、おこぼれもちゃんとあげるから」
「で、でも、あまりに危険過ぎますよ」
必死に抗議するが、プリシラ、バーストン、ランティスは聞く耳を持つ様子はない。
アルベルトを見やれば、彼はため息を吐いて肩を竦めた。
「ミシェル、ここは平和的に多数決で決めようじゃないか。僕はS級ハンターとしてダンジョンに入り、奥まで探索すべきと思う。君たちはどう思う」
「賛成」
「……反対です」
アルベルトを含めた四人が手を挙げ、私だけが頭を振った。
「賛成4、反対1だ。じゃあ、調査決定だね。ミシェル、君にも最後まで協力してもらうよ」
私は死の宣告を受けたようにがっくり項垂れるが、アルベルトは「大丈夫」と続けた。
「万が一に備えて、調査メンバー分の帰還石があるんだ。これさえあれば、いつでもダンジョンを脱出できる。僕だって命は惜しいからね」
彼はそう言うと、私に緑色の帰還石をくれた。
これさえあればいつでもダンジョン内部から脱出できる。
でも、相当に高価なものだ。
これをくれるということは、本当に万が一に備えてくれているのだろう。
「……わかりました。私も全力でお手伝いいたします」
「うん、わかってくれて嬉しいよ。じゃあ、出発だ」
アルベルトはそう言うなり、先頭を切って黒い渦へと足を踏み入れていった。
次いでバーストン、ランティスと続く。
「ほら、没落令嬢もさっさと行くわよ」
「は、はい……」
最悪、このタイミングで逃げられるかもと思ったが、残念ながらプリシラに腕を掴まれ、私は否応なく黒い渦の中に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます