第4話

アトワイトは即座に距離を詰める。

その動きは一切の無駄がなく、まるで戦場における処刑人のそれだった。


「名を……名乗ったな。敵か?」


「どうだろうね。今のところは、ただの通りすがりさ」


男は笑った。自信に満ちたその態度には、どんな国の元首も見せることのない“余裕”があった。

挑発でも虚勢でもない、純粋な実力に裏打ちされた本物の自信。


アトワイトの目がわずかに細められる。


「その笑い、傲慢だ。排除対象とする」


「だったら、やってみろよ」


その瞬間、空気が裂けた。


アトワイトの手に展開される、対人用の魔力式短剣クリムゾン=リヴ──グロリアの副兵装から分離した超高密度のナノ刃兵器。

閃光のような斬撃が、男の喉元を正確に狙って放たれる。


——が、その刃は届かなかった。


「ッ……!?」


男の手が、ぴたりと短剣の軌道を指一本で止めていた。


「すごい技術だ。さすが“グロリアの主”だな。けど、それだけじゃ……俺は倒せない」


その言葉と同時に、アトワイトは初めて感じた。

自分と“同質の何か”を、彼の中に。


異質で、常識を逸し、理不尽な力と意志で世界をねじ伏せてきた自分と——同じ、あるいはそれ以上の“破壊者”。


「……誰に作られた?」


「俺は人間だよ。君と同じ……たぶんね」


男の目が真っ直ぐにアトワイトを射抜く。

その蒼の輝きは、奇妙な熱を帯びていた。


「世界を征服したいんだろ?」


「違う。……修正するだけ」


「なら、目的は同じだ。方法が違うだけでね」


静寂。


そして、アトワイトは短剣を引いた。


「興味があるなら、情報提供者として処遇する。裏切れば、その時は即座に排除する」


「それでいい。……少なくとも、君に付き合う価値はあると思ってる。アトワイト・グエルクス」



それが、はじまりだった。


《孤独な是正者》アトワイトと、

《異端の征服者》ユリウス。


ふたりの道は、交差した。まだ互いの目的が完全に重なることはなかったが——それでも、確かに何かが動き出していた。


だがそれは、あくまで伏線。


今はまだ、世界が一人の少女に膝を屈する時代。

アトワイトだけの支配が続いていく。


——次の標的は、砂漠の王国サリファ

魔導砲陣と獣兵団を誇る、強国である。


それでも彼女は言う。


「敵の数は、関係ない。世界全体が敵であっても、私は正すだけ」


彼女は、止まらない。


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