その日、空が落ちた《婚約破棄超巨大殺戮ロボットシリーズ》

みなと劉

第1話

その日、空が落ちた。


婚約者である王太子・ジルベルトの口から告げられた言葉は、アトワイト・グエルクスの運命を決定的に変えた。


「……君との婚約は破棄する。君のような感情も表に出せない機械のような女は、王妃に相応しくない」


辺りが静まり返る。広間に集った貴族たちは、彼女の反応を期待していた。泣き叫ぶか、取り乱すか、怒りをあらわにするか——。


しかし、アトワイトはただ一言、呟いた。


「……了解。認識完了」


そうして、背後の扉が開いた。


轟音と共に現れたのは、国境防衛用に開発されながら、王命により封印されていた、禁忌の超巨大機動兵器グロリア・エンド。その操縦コードを唯一保有していたのが、他ならぬアトワイトだった。


「……グロリア、起動コード・アトワイト=グエルクス、開放」


次の瞬間、玉座の間が揺れ、城壁が砕け、空を裂いて黒き巨影が昇った。


「——お別れです、王太子殿下。貴国には、ここで終わっていただきます」


機械のように冷たい声。だがその目には、初めて——確かに、怒りが宿っていた。


それから三日後、国家グラディアは、地図から消えた。



世界は怯えた。

かつて〈鉄血の人形姫〉と揶揄された貴族令嬢、アトワイト・グエルクスが、ただ一機のロボットで王国を滅ぼした事実に。


だが誰も知らなかった。


この時すでに、彼女の“復讐”は終わっていたということを。

これから始まるのは——彼女だけの、誰にも邪魔されない、《世界征服》という名の歩みであるということを。


彼女は振り返らない。

誰とも交わらず、愛さず、ただひとり、巨大殺戮ロボットと共に歩く。


それが、アトワイト・グエルクスの《物語》の始まりだった。


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