第7話

 あとは、家族への取材か。確かゆかりの両親は二人とも働いていたが、彼女が事件を起こしてから母は仕事を辞めて家に引きこもっている。父親は転勤して今は一人で暮らしている。

 まず近所から調べるか。


 俺は土井ゆかりの家まで車で向かった。


 高速道路を降りて十五分ほど行った場所に住宅街が広がっている。


 平和台公園三と書かれている公園を目印にして五軒向かい隣りだったはず。俺はゆっくりと車を進めて家を確認する。


 彼女の住んでいる家は二階建ての一軒家で他と特に変わった感じはない。塀は無く、真ん中に玄関があり、右には駐車場左には植木鉢がいくつか置かれている。


 植木鉢は長い間手入れされていなかったようで雑草が生えていた。


 事件当初はテレビや新聞、SNSの記者達が大勢家の前にたむろしていたが、今は誰もいない。


 後で近所の人から聞いた話だが時折、近所に住む人達が観光名所のようにチラリと見に来るだけのようだ。


 俺は家を見に来た人に声を掛けてみるが、誰もが詳しい話はわからないようだ。そうしているうちに隣の家の住人が帰ってきた。


「あの、すみません。ちょっとお話を聞かせてもらってもいいですか?」


 五十代位の女性は明らかに面倒そうな顔をしながらも足を止めた。


「土井さんの話でしょう? 取材に来た人達に散々話をしたわ」

「言い飽きるほど取材に付き合ってこられたのですね。なんだかすみません。私はこういう者です」


 俺はいつも通り名刺を差し出すと女性は静かに受け取り、話を聞いてくれるようだ。


「手短にお願いしますね」

「ありがとうございます。早速なんですが、土井さん家族と交流は時々でもあったんですか?」

「ないわ。むしろ昔から迷惑ばかり掛けられていたもの」

「迷惑とは?」


「沢山ありすぎて思い出せないくらいよ。土井さんのところは妹ちゃんよりお兄ちゃんの方が凄かったから」

「お兄さんの方が周りに迷惑を掛けていたのですか?」


「ええ、この辺じゃ有名よ?みんなが知っているわ。うちは同級生だったからよく息子から話を聞いていたし」

「例えばどんなことで有名だったんですか?」


「そうねぇ。他人の家の敷地に勝手に入って物を置いていったり、吠える犬が煩いからって石で殴り殺そうとしたり、近所の公園で子供を滑り台の上から蹴り落として病院送りにさせたりしていたわ。妹ちゃんも暴力を振るわれていたみたいね」


「兄の方は問題にならなかったんですか?」

「あまりに暴力事件を起こすから親はしょっちゅう謝りに行っていたみたい。


 でも子供のすることだからって警察は免れていたけど、一歩間違えれば通報されていたわ。実際、回覧板に不審者情報が流れてきた内容は隣のお兄ちゃんの話だったし」


 どうやら妹よりも兄の方が問題を起こしているようだ。


 兄妹揃って何かあるのか。それとも家庭環境が良くないのだろうか。


「ご両親はどんな感じなんですか?」


 俺は質問してみたが、呆れているような感じで肩をすくめて返事をしている。


「さあ? 日中は共働きで会うことなんてないし。ほらっ、奥さんは田中不動産さんの事務だっけ? しているって昔聞いたことがあるわ。


 旦那さんの方は広実建設さんの設計士さんよ。二人とも大手企業で良いわよねー。でも、あまり家族で出かけているところを見たことはないから夫婦仲はあまり良くないのかもしれないって話しよ。


 それに土井さんの家は声を掛ければ会釈をする程度でもちろん町内会の仕事もしないし、皆、あまり良い顔はしてないかも」


 奥さん方がするような世間話だが、情報は侮れない。世の女性たちは俺のような男が会話で汲み取る情報以外にも鋭くチェックを入れているところが凄い。


「そうなんですね」


 俺は相槌を打ち、話を聞くと、お隣さんは更に教えてくれる。


「私から話を聞くより、小学校や保育園の先生に聞いたほうがいいわ。あー小学校はみんな先生が転勤しているから青空保育園がいいと思うわ。あそこなら先生はまだ残っているもの」


「青空保育園ですね。聞いてみますね。ゆかりさんの話で思いつくことはありますか?」

「小学校の頃、いつも親に付き添われて登校してたことくらいしか記憶にないわ。


 うちもそうだけど、みんなが避けていたし。下手に関わったお家は落書きされたり、ごみを投げ入れられたりされていたの。


 最近はお兄ちゃんが居なくなって妹ちゃんだけになっていたから静かになっていたわよ」


「色々教えていただいてありがとうございます」

「ええ。ところでこの取材は週刊誌に載るの?」

「どうでしょうか。沢山の情報を集めてようやく小さな記事に載るかどうかってところなので。大きく載るように努力します」

「そう、楽しみにしているわ」


 俺は隣人にお礼を言って車に戻る。


 挨拶をした時に二階の窓のカーテンが揺れたことに気づいていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る