第5話 土井ゆかり視点

 やっとだ。

 やっとチケットが手に入った!


 この日のためにファンクラブに入ったようなもの。過去にチケットは何度か取ってコンサートに行ったことはあるけれど、中央の前寄りの席が取れたことはなかった。


 きっと彼が私のためだけに用意をしてくれたんだと思う。


 私は逸る気持ちを抑えながらコンサートに行く準備をしていく。


 高校を卒業してからずっとバイトに出かけるつまらない日々を送っている。


 父は昔から家族を放って遊び歩き、たまに家に帰ってきたかと思えばいうことを聞かない私達に手を挙げた。


 母はそんな父を止めるわけでもなくただ見ているだけ。父がいない日は穏やかなのかといえばそうでもない。


 疲れて仕事から帰ってくる母を怒らせないようにする。


 家事は兄と分担し私は幼い頃から手伝わなくちゃいけなかった。少しでも家事が疎かになっていたり、気分が良くないと母は物に当たったり、文句を言っていたりした。『あんたを産まなきゃよかった』なんて何回聞いたことか。


 父は暴力で私達を従わせるけれど、母は言葉で私達を支配している。


 幼い頃は両親に構ってもらいたくて色々やっていた。家で物を壊したこともあったし、お友達にちょっかいをかけていつも学校や母親に怒られてばかりいた。


 父はいつも仕事で家におらず、たまに家にいても私のことを無視していた。私のことなんてどうでもいいんだなって気づいてからは私も父に近寄らなくなった。


 いつも関心を向けてくれるのは母と兄だけ。


 でも、成長していくうちに兄は一人部屋で過ごすようになり、勝手に進学先を決めてさっさと家を出てしまった。


 私には友達が一人もいない。


 最初こそ仲良くなろうなんて話しかけてくるのにちょっと推しの話を遮っただけで怒っちゃうし、友達が使っていた化粧品が欲しくて『ちょうだい』って貰っただけなのに泣いちゃうし。


 挙句の果てにヒソヒソと私の悪口を言っている。馬鹿みたい。


 折角こっちが仲良くしようと喋りかけているのに。


 私と母の二人の生活は息が詰まって仕方がない。兄がいればまだ母は兄に小言を言って済んでいたけど、兄がいなくなった途端に私に向いた。


 それにこっちだってバイトをしているのに全部家事をやれって。やらないと推しのグッズが壊される。


 部屋に鍵を付けて抵抗してみたけど駄目だった。鍵自体を壊して物を捨てたり、壊したりする。


 早くこんな家出ていきたい。


 だけど、折角アルバイトで貯めたお金も勝手に銀行から引き出して母が持っていってしまう。母にとって都合のいい奴隷が逃げないようにしているんだって分かっている。


 つまらない。

 私って生きている価値がないんじゃないかな。

 いつもそう思っていた。


 推しを見ているこの時間だけは特別なの。彼は私のことを見てくれていつもスマホのアプリを通して”お嬢様、大丈夫ですか”って声を掛けてくれる。


 私のことを愛してくれるのは彼だけなの。



ーーーーーーーーーーーー


サスペンスだと思うのですが、ホラーのカテゴリに移動した方がよいのかよくわからず…。

もし、これがホラー(スリラー)カテだよ!と思ったらお知らせください⭐︎

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