第25話:はじめての、ふたり春巻き作戦
厨房に、
そわそわした春風が吹いていた。
今日は、
春キャベツとチーズのミニ春巻き、はじめての試作会。
私と後輩ちゃんは、
エプロンのすそをきゅっと握りしめながら、
作業台の前に並んだ。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
後輩ちゃんが、ぺこりと頭を下げた。
「こちらこそっ!」
私も、ちいさく頭を下げる。
台の上には、
きざんだ春キャベツと、
やさしく香るチーズ。
それから、春巻きの皮。
「よーしっ、まずは、包むぞ〜!」
後輩ちゃんが、元気よくトングを持った。
私は、そっと春巻きの皮を広げる。
春キャベツを、ぽん。
チーズを、ぽん。
くるくる、ぺたぺた──。
でも。
「あああっ、やぶけたっ!」
後輩ちゃんの声に、
びくりと肩が跳ねた。
見ると、
皮がぴりっと破れて、チーズが顔を出している。
「ど、どうしよう……!」
あたふたする後輩ちゃんを見て、
思わず、くすりと笑った。
「大丈夫、大丈夫っ」
私も、そっと手伝った。
水で端をぬらして、
やさしくくるんで、
ぎゅっと巻く。
でも、こんどは──
「わあっ、チーズがとろけすぎたっ!」
今度は、私のほうが失敗した。
ふたりで顔を見合わせて、
ぷっと吹き出した。
「む、むずかしいですね〜!」
「うん、でも楽しいね!」
何度も、何度も。
くるくる、ぺたぺた。
ふたりで、笑いながら春巻きを作った。
きれいに包めたときは、
ふたりで、そっとハイタッチ。
油にそっとすべらせると、
ジュワッと音が広がった。
きつね色に揚がったミニ春巻きたちは、
ころころと、かわいく並んだ。
春キャベツのやさしい甘みと、
チーズのふわっとした香りが、
厨房いっぱいにひろがった。
「おいしそうっ!」
後輩ちゃんが、きらきらした目で叫んだ。
私も、ぱあっと顔を輝かせた。
そっと、ひとつ、かじってみる。
サクッ。
ふわっ。
やさしい甘みと、
とろけるチーズのコク。
ふたりで顔を見合わせて、
にこーっと笑った。
「これ……いいねっ!」
「はいっ!」
胸の奥が、
ぽうっとあたたかくなった。
失敗したり、
ドタバタしたり、
大変だったけど。
それでも。
ふたりで、
ちゃんと春風を作れた。
厨房の奥で、
ジュワジュワと油が鳴っている。
売り場のガラスケースの向こうで、
きつね色のコロッケたちが、
ころんと笑っている。
──また、あしたも。
ふたりで、いっしょに。
ちいさな春風を、
誰かの今日に、そっと届けられますように。
今日も、願いをこめて。
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