第2話:「バレたら終わる!?転校生と腐れた昼休み」

昼休み。

俺は親友カケルと共に、教室の隅っこで“今期アニメ議論会議”を開いていた。


「だーかーら!今期の“悪役令嬢VS宇宙海賊”は、ただの百合バトルじゃない!魂の激突なんだよ!!」

「いやいや、そこは“ショタ勇者♂リリィたんの冒険”でしょ!最終話でCV:子安が人間を辞めて裏切るって……!?」


クソ!親友の癖にわからず屋!


俺たちは熱い。それは灼熱になるほど議論していた。

しかし

周りの生徒たちは当然置いてけぼり。


「あの二人、さっきから“百合”とか“ショタ”とかって言ってますけど…何それ?」「わかんない…」

「カケルくんの話、怖くて耳ふさいでた」

「てか、バレー部のエースって…マジでオタクだったんだ…」


よし、今日も有意義な会議ができた!


そのとき、俺の隣の席――転校生の秋月ミナトが、カバンから何かを落とした。


カサッ。

俺の足元に転がってきたのは――


「俺の相棒♂はアイツだけ(R18)」のドラマCD。しかも限定描き下ろしスリーブつき。


「……ん?これって、もしかして……」


「っ!!!見てない!!見てない見てない見てない見てな――いっ!!」


ミナトは超早口でCDをかっさらい、爆速でカバンに戻した。


「お、お前……それ、知ってるぞ……え、確か男2人組のアイドルが…そのガチほ…」


「知らない!知らない!知らない!そして違う!これは純愛だから!」


「否定すべきはそこか!?」


顔を真っ赤にしてるミナト。まさかの隠れ腐女子。

そういう事か


「安心しろ、俺は敵じゃない。推しが尊い同志は、性癖の違いを超えるのだ」


「やめて!? その言い方、誤解を生むから!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


放課後、部活の時間。

バレー部の後輩たちは今日もざわついていた。


「昨日、コウタ先輩が“ネムたんアロー”って叫びながらスパイク打ってたって聞いたんすけど……」

「何が“アロー”なんすか?何かの魔法?」

「よくわかんないけど、ボールは確かに刺さった…ありえないくらい鋭角に…」


「ふははは!見たか俺の“ラビたん必殺うさパンチスパイク”!!今日の推しパワーはMAXだァァ!!」


俺は完全にテンションのリミッターが外れていた。


「…あぁ、まただよ。エースがバグってる……」

「ていうかラビたんって誰……??」


ふはははははっ推しを摂取した今の俺は無敵!

生ぬるいブロックなんか怖くない!!


キャプテン、シンヤが近づいてきた。


「……くだらんな。お前がアニメに現を抜かしているが、俺たちは全国を目指している部活だ」


「全国行くぞ?ネムたんと一緒に」


「……は?」


「ネムたんは俺の精神支柱なんだ。バレーで勝ったら、グッズが増える。グッズが増えたら俺が強くなる!だから俺は勝つッッ!!」


「お前のその理念、気持ち悪い…だがなまじ力だけはあるのが腹立つ……!」


「よし、じゃあ試合だ!勝った方が夕飯おごり!!」


「何故そうなる!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃、教室のミナト。


彼女は一人、イヤホンでドラマCDを聞きながら机に突っ伏していた。


「何が、俺は敵じゃない。推しが尊い同志は、性癖の違いを超えるのだ。……よ」

「……高槻くん…もし、私の趣味を知ったら…引くかな……?」


しかし、その心配はきっと杞憂。

なぜなら、あの男――推しに全てを捧げてるから。


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