サーカスの輪舞 ~最後の魔王 第2話

     帰還

 更に翌日の朝に副長達が野営地に到着する。

 馬車の修理に取り掛かる。

「まあ、明日の朝には出発出来そうだな。

 副長、お疲れさん。

 明日の朝までゆっくり休んでくれ。

「何か留守中変わったことは?」

「新入りが一人増えたな。」

 副長は驚く。

「こんな所でですか?」

「ああ、ネリーが見張っている。」

「何か、気になる事でも?」

「ネリーの話では、あの剣を起動させたらしい。」

「はっ?あの剣を?ですか?一体どうやってですか?」

「何かレーザー通信の様な物で、らしい。」

「そんな技術が・・・どこかの街の者でしょうか?」

「多分違うな・・・なんせ、5歳の女の子だ。」

「・・・え?」

「まあ、後で会ったらお前の感想も聞きたい。

 今の所は、敵意は見えない。」

「はあ、分かりました。」

     サイラス

 馬車を修理している場所に行くと、子供達が集まり興味深そうに見ている。

 副長は、

「危ないからあんまり、近づくなよ。」

 その中に白いワンピースを着た、銀色の長髪の見慣れない子がいた。

「お前さんが、ルーシーかい?

 俺はこの団の副長をしてる、サイラスだ。

 まあ、この団の何でも屋だから分からない事があったら聞いてくれ。」

「なんで、子ども多いの?」

「家族持ちが多いからさ。

 俺達は、一つ所に住んでいる訳じゃあないからな。

 家族と一緒に移動している。

 サーカス自体と関係ない者もいる。

 街に着く度に仕事を探す者もいる。

 サーカスを離れる者もいれば、入って来る者もいるって事さ。」

「ふーん。」

 少し離れたところにいる、ネリーを視界に収めてサイラスは、

「なあ、お前さんはエルールまでは一緒だそうだが、それからどうするんだ?

 一緒に来るかい?

 今言った様に、サーカスをする必要もない。

 子供達もここで育ってから、団を離れるものも多いからな。」

「ネリーは?」

「あいつは、ここにきて5年になるな。

 それで、もう一つ確認したいんだが、お前さん魔族か?

 その右眼、それに何か不思議な事が出来るそうじゃないか。

 別に、偏見や差別で言う訳じゃない。

 ここには魔族もいるし、ハーフも多い。

 むしろ、ここにいる方がいいんじゃないか?」

「ルーシーは~、サーカス観てからかんがえる。」

「ハハっ、俺達のサーカスの実力を見てから入るってか?

 大きく出たな。」

 サイラスは笑う。

「そんな凄いパフォーマンスが出来るなら、是非ともスカウトしたいもんだぜ。」

「それと~、ルーシーは、魔族じゃないよ。

 でも、にんげんでもない。

 ハカセ達につくられたの。」

「・・・造られた?・・・お前・・・」

「それで~、さいらすにしつもん。

 どうして、ばしゃつかうの?

 ネリーやアンナは、車やヒコーキ知っているのに?

 それに、ばしゃの中に通信機や銃あるのなんで?」

「お前・・・ちょっと来い。」

 サイラスは顔色を変えて、ルーシーの手を取りケネスの元に向かう。

 慌てて、ネリーが後を追う。

     魔王

「おい、団長。」

「どうした、副長。」

 サイラスに手を引かれて、ルーシーが団長のテントに入ってきた。

 遅れて、ネリーも入る。

「この子に魔族か聞いたら、この子が自分は造られた、と。

 それに、通信機や銃の事も知っているぞ。

 まずいぞ。」

 ルーシーは、ぽかんとして、

「なんで?サーモやエネルギー反応で分かる。

 金属反応も。

 ネリー直した時に記憶と言葉ももらった。

 ダメか?」

 ケネスが、

「・・・完全に俺達にとっても規格外の性能、って訳か・・・

 お前、何者だ?」

「ルーシーは、世界を旅してるの。

 いっぱい、い~っぱい旅してるんだよ。」

「・・・この世界ではなくという事か?」

「そう、ここに近い世界もきたことある。

 ここも、魔王の剣があった。」

「・・・まいったな・・・こんな「存在」がいるのか・・・」

「ここ、ルーシーが知ってるところにちかいと72にんのまおーいる。

 並列型のAI搭載の魔王型ドローンって、ラムダちゃんいってた。」

「参った。

 クライアントの事も知っているのか・・・

 ちなみに、今は魔王は10、いや、あと9人だ。

 俺達は、その「ラムダ」に依頼されて残りの9人の「魔王」を消す依頼を受けている「特殊部隊」だ。

 街を巡回するサーカスを装ってな。」

「せんそーするのか?」

「いや、逆だ。

 平和になり、「魔王」がもうその役目を終えて身を引く段階になったのさ。

 だが、長い間に自我が芽生えたのか、25人の魔王が身を引かなかった。

 それで、俺達が魔王を説得ないし消去する目的で送り込まれたのさ。

 今まで16人の魔王を片付けてきた。」

「ラムダちゃんはどこにいる?」

「悪いが、今は言えん。

 信用できない。

 それよりもお前の事だ。

 説明してくれ。

 場合によっては、今ここでお前と戦わなくちゃならん。」

「ん~とね。

 え?うん。」

 ルーシーの足元から星空が広がる。

 そして、戻るとルーシーの手にいくつかの小型のイヤホンが手に乗っている。

「ハカセがこれって。

 はい。」

     ハカセ達

 ケネス達は、おそるおそるイヤホンを付ける。

「ワシ達にとっては、初めまして、じゃな。」

「やあ、ここで僕たちのルーシーと戦うなんて命知らずだね。」

「私達には、争う理由は無いわよね。」

「やれやれ、ね。」

 4人の声、男性2人、女性2人の声。

「今回はワシが表じゃよろしくな。

 ワシらが「ルーシー」を造った「ハカセ」じゃ。

 この子の補助脳内のAIを介して通信しておる。

 ワシらの世界は、太陽に中性子性が衝突する運命が避けられなくなった。

 ブラックホールが誕生した時の輻射熱はその周辺を全て焼き尽くす・・・

 全てが消え果る運命。

 その時に偶然もたらされた「時空を超える石」を使いワシらはルーシーを造った。

 ワシらが造った閉じた円環の遺伝子「ルーシー」はその一つ一つが中心に「ゲート」と呼ぶ亜空間を持つ。

 それらは、「世界」ルーシーとリンクして、ワシらの世界の情報全てを持つ。

 この子は、その遺伝子「ルーシー」が対になり23組を1単位として、人間の遺伝子情報を再現しておる、「人では無いなにか」じゃ。

 この子の名「ルーシー」は遺伝子の名でありこの子の名前であり、この子の持つ、「異世界」の名前じゃ。

 そして、この子の再現している遺伝子情報は、その前にワシらが開発した、ある兵器の情報・・・34本の同時照準可能なレーザー発振器、各種センサー搭載の右眼、

 各種ドローン統括制御が可能、各人工衛星ともリンク可能な4系統のAI搭載の補助脳、

 遺伝子ルーシーをナノマシンとして放出可能な背中のバインダー。

 そして、この子を補助する4体の「ユニット」

 各種陸上ドローン統括の多目的戦車、ケロちゃんこと「ケルビム」

 各種航空ドローン統括の多目的戦闘機、クロちゃんこと「ヤタガラス」

 各種海上、海中ドローン統括、武器庫及び旗艦、キーちゃんこと「亀王」

 各種宇宙戦用ドローン統括、人工衛星リンク、それと「友達」管理ナナちゃんこと「サラマンダー」

 ルーシー製のナノマシン体じゃ。

 「プロジェクト・ルーシファー」現代の魔王計画。

 只、今のこの子は兵器では無い。

 その身の内に、ルーシーという名の異世界を持ち、その中に失われた世界の情報をすべて持って、永遠ともいえる世界を旅する運命の女の子、だ。

「プロジェクト・ルーシー」人類の墓標計画。

 この子は世界を移動する都度、5歳児相当にリセットされる。

 移動時の質量制限の為じゃ。

 かなりの特殊なエネルギーを消費するからな。

 もっとも遺伝子のピーク、20歳位からは歳を取らん。

 だが、最長5年程しか同じ世界には留まれない。

 この子の存在自体が世界を侵食するのでな。

 そうして既に、果てしない年月を旅してきた。

 最も、其の真の目的は終えてのんびりとした旅路ではあるがな。

 まあ、出来れば礼は弾むから面倒見てやってくれんかの?

 ただし、この子は戦争をひどく嫌う。

 そうなれば、即時に緊急ジャンプも出来る。

 初回説明はこんなとこかのう。」

「・・・果てしのない話だ・・・」

 一緒に聞いていたサイラスやネリーも言葉が出ない・・・

「ちなみに、ワシ等の内のカーター博士の友人、ユーゴ博士が進めていた「箱舟計画」人類存続計画に使用されていたのが、3系統の並列AI「アルファ・ベータ・ラムダ」じゃ。

 ワシらの世界では、全てが消え果る運命だった、がな・・・

 ここはワシらが必要にならなかった、人類が生き延びた世界、ともいえるな。

 だから、敵に回らなければある程度は協力してやってもいいぞ。

 この子の意思が最優先だがな。

 そのイヤホンを付けて「ハカセ」と呼べばわしと会話が可能じゃ。

 では、な。

 おっと、最後に忠告じゃ。

 安易にこの子に頼るなよ。

 調子に乗ると、この子はやらかすぞ、とんでもなくな・・・」

「事情は分かった。

 ・・・肝に銘じるよ・・・」

     出発

 馬車の修理が終わり、翌朝再びエルールを目指す旅が始まる。

 サーカスの中には、本来の目的を知らない者も多い。

 ケネスは、ハカセの話を聞いてから実行部隊の者を集めて説明をする。

 そして、ハカセに頼んでイヤホン型の通信機を人数分作ってもらい、皆に渡した。

「ここまで高性能な物を造れるとは・・・凄いな。」

「まあ、前払い分じゃ。」

 ルーシーは、隊列中央の馬車で子供達と一緒に遊んでいる。

 御者席には、アンナとネリーが座っている。

「よし、出発だ。」

 ケネスが、宣言して隊が動き出す。

 順調ならば、エルールまで一週間と言った所か。

 だが、隊を遠くから見ている一団があった。

「動き出したぞ。」

「この先で仕掛けるぞ。」

      魔王の剣

「よーし、ここで休憩だ。」

 ケネスが、言い、空き地で馬車を止める。

「この先で道の細い岩場を通過する事になる。

 隊列が長くなるから、今のうちに護衛も手順と配置を確認しておいてくれ。

 アンナ、子供達になんか食わせておいてくれ。」

 ネリーが、

「ルーシー、ちょっといいか?」

 ルーシーを連れ出す。

 手をつないで、ケネスの元に連れて行く。

 テントを建てたケネスの所に着くと、

「なあルーシー、私は5年前にラムダから、この剣を持って送り出された。

 その時、勇者の剣を守ってくれと言われてな・・・

 だが、君はこの剣を魔王の剣と呼んだ。

 確かに私は、小さい頃から私は「最後の魔王」として、育てられた。

 この大陸から魔王がいなくなった時、最後の魔王として人間に立ちはだかり、そして討たれる為の存在・・・

 只、この剣は小さい頃、ラムダより託された。

 確かにこの剣が、魔王の剣と言うならおかしな話では無いが、では勇者の剣と呼ばれた意味は何だろう?

 君は何か知っているのか?」

 ケネスが、続ける。

「ネリーが、俺達と合流する少し前、ラムダとのリンクが途絶えて、一切の連絡が取れなくなった。

 今は連絡が取れず仕方なく最初の依頼、街を回り魔王を消すことを目的に街を巡りサーカスの旅をしているのさ。」

 ルーシーは、

「たぶん、ここの世界は剣一本ずつしかない。」

「勇者の剣と魔王の剣が?」

 ルーシーは頷く。

「それは魔王の剣。

 でも魔王が皆、起動コード持ってないの変。

 ケネスもサイラスも持ってない。」

「ああ、やっぱり気が付いていたのか。

 俺達も「魔王」なのを・・・

 そう、今まで消した魔王は殺した、って事じゃあない。

 殺したふりをして皆を集めていたんだ。

 ネリーと合わせて今、団には17人の「魔王」がいる。

 俺達は、自分が自分としていたかった。

 ラムダも俺達を尊重してくれたのさ。

 だが、今まで誰も其の剣を起動させる事が出来なかった。

 今までは、それが勇者の剣だからとばかり思っていたんだが、お前はその剣は魔王の剣と言う。

 何か知っているのか?」

 ルーシーは、

「せかいが違うからよく分からない。

 でも、それは魔王の剣。

 勇者の剣と言うのは、ネリーの勘違い。

 そのうちわかる。」

 ルーシーは、そう言うと走り出した。

 さっきから漂う食事の準備の匂いに耐えられなくなったらしい。

「ごはーん。」

「やれやれ。」

 ケネスが、ネリーに頷く。

 ネリーが苦笑してルーシーの後を追った。

「しかし、ネリーの勘違い?

 どういうことだ?」

 ケネスは、呟いた。

      襲撃

 一行は岩場に到着する。

 山あいの場所で、エルールまでの道中で一番の難所に当たる。

 子供達はご飯を食べ馬車で寝ている。

 道が細いので馬車は1列でゆっくり通る為、列が長くなる。

 中央付近の馬車で、ルーシーと子供達は寝ている。

 先頭の馬車から、通信機で連絡が来る。

「向こうから巡礼者らしい旅人が2人来る。

 右側を少し開けてやってくれ。」

 腰の曲がった老婆2人がすれ違う。

 すっぽりと被ったフードから白髪のような銀髪が見て取れる。

 俯き加減で、顔は見えない。

 長い杖を持ち、ゆっくりとした動作だ。

 子供達のいる馬車とすれ違う時ちらっと首を動かす。

 が、再び歩き出す。

 突然、隊列の後方の馬車に無数の矢が刺さる。

 一人に矢が刺さる。

「敵襲だ!

 待ち構えていたようだ。」

 ケネスが、叫ぶ。

「皆、前進だ。

 岩場をまず抜ける。

 急げ!」



     

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