第7話 追放の夜、残響する声

陽翔は、リビングに一人残されたまま、しばらく動けなかった。頭の中で父と姉の言葉が何度も反芻され、ひどく混乱していた。


「無実を証明する…」


でも、それはどうすればいいんだろう? 目撃証言があり、画像も送られている。それを覆す証拠なんて、何もない。


心の中で何度もその言葉を繰り返しているうちに、ふと気づく。家の中が静かすぎて、まるで冷たい空気が全てを支配しているようだ。


「出ていけ」と言われた言葉が、胸を押しつぶす。


陽翔はゆっくりと立ち上がり、部屋を出る。自分の荷物をまとめなければならないという現実に、ようやく気づく。


部屋の片隅に置かれたバッグを見つめ、無意識に手を伸ばす。そこに入れていくのは、特に必要とも思えないものばかりだったが、どこかで「これだけは」と思って入れた本や小物があった。


それをまとめてバッグに詰めながら、陽翔は一つの決意を固める。


「本当に、俺はどこに行けばいいんだろう…?」


そう心の中で呟いた時、ふと視界に入ったのは母の部屋のドアだった。


母はどこかで陽翔を信じてくれている。彼はそれだけが唯一の救いだと感じていた。だが、今日の出来事は、母にとっても大きな衝撃だっただろう。母には、何も言わずに去ったほうがいいのだろうか。


思い悩んだ末、陽翔は母に伝えたいことがあった。けれども、あの母がどんな顔で自分を見送るのかを想像するのが怖かった。


ただ、今は考えがまとまらない。


「もう行こう」


陽翔はバッグを肩にかけると、玄関へ向かって歩き出した。


玄関を開けると、外は夜の冷たい風が吹いていた。街灯の下でふと立ち止まり、陽翔は空を見上げた。


「どこに行けばいいんだ?」


その質問に答えるものは、空の向こうには何もなかった。陽翔は、ただ足元に目を落とす。


祖母の家まで行くしかない。祖母とは昔、よく会っていたが、今ではあまり連絡を取っていなかった。しかし、この状況では他に頼るべき場所が見つからない。


「行くしかない」


その言葉を呟くと、陽翔は重い足取りで家を後にした。




================================

冤罪という名の闇に落ちた少年の、再生の物語。

彼の行く末が気になった方は、応援&フォローで見守っていただけると励みになります。


ぜひ☆をお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る