第14話 走者

教室に入るとき、遅刻したとき独特の緊張感が締め付ける。

「ふぅー」

深く深呼吸をし、教室に入る。

ガラッという音が教室に鳴り響き、教室が静まり返る。

(こういうの苦手なんだよなぁ)

涼のような陽キャならば「うぇーい」とか言って周りの友人に声をかけながら歩くように超えていきそうな壁は俺にとっては汗水たらしてやっと超えれるかどうかである。

どう身を振ればいいか迷っていると

「おせーぞ駆。寝坊か?」

と涼から本人は意図していないであろう助け舟が出される。

「そうそう寝坊しちゃってさ、起きたら昼でビビったよ」

「珍しいな駆が寝坊なんて」

瀧が俺に前の授業のものと思わしきプリントを手渡してくれる。

「ありがとう。昨日はいつもより眠りが深かったのかアラームに気付かなくって」

「へぇ、なんかいいことあったのか?」

涼の問いにどう答えていいかわからず、教室に入ってくる茜の方をちらりと見る。

「あっ、駆じゃん!やっと来たんだ!lein送ったのに全然返信ないから心配してたんだよ」

はっとなり急いでスマホを確認すると茜や涼から何件もメッセージが届いている。

「ごめんっ!慌ててて全然気づいてなかった」

「もぉー次からはちゃんとしてよねっ!」

茜からペシッと肩をたたかれる。


なんだか少し茜との距離が縮まった気もするが、昨日の事が印象的過ぎて脳がまだ麻痺しているようだ。


___________________________


今日も今日とて放課後に委員会は行われる。体育祭まであと十日。今回の議題は明日各クラスで行われる種目決めの為、各種目の把握と参加人数の確認、種目決めの為の注意事項などだ。

今日は軽い確認だけで済んだため。数十分程度で解散となった。


茜との帰り道。明日の種目決めに向けて作戦を練る。

「まぁ、二人三脚はおそらく大丈夫だと思う。多分うちのクラスにやりたい奴はあんまいないだろうし、ペアで立候補するようこっちから言えば難なく涼と組めるだろう」

「そうだねっ!一人二種目だからもう一個出ないとだよねぇ」

「無難にリレーとかいいんじゃないか?二人とも足早いし、リレーやってくれるのはクラスにとっても大歓迎だろ」

「それいいねっ」

(茜も喜んでくれたようでよかった)

作戦会議は早めに切り上げ、今日の午前中あったことなど他愛もない雑談が交わされる。時折、茜と手の甲がぶつかる。やっぱ距離近いよな、と思い離れようとするも、数分後にはまた戻っている。

「あ、茜さん?ちょっと、」

ちょっと距離が遠くないですか?

そう聞こうとしたが

「ん?」

という圧に押し負け

「いえ、何でもないです。」

そう答えるのだった。

そうこうしている間に、気づけば茜の家の前に着いていた。

「もう着いちゃった。じゃあ、また明日ねっ」

「あぁまた明日」

ひらひらと手を振り、家に入る茜を見届けた後、俺は帰路に就くのだった。



_______________________


翌日の放課後。教室では種目決めが行われていた。

「じゃあまず、やりたいものがある人は名前を書いていってください」

教卓の前に立ち軽く各種目の概要や注意事項を話した後、俺と茜も席に戻った。


教室では各々が各グループで集まり、なにに出るかの相談が行われていた。

「ねぇ、涼。この二人三脚のやつ一緒にやらない?」

まずは茜が仕掛ける。

「ん?二人三脚かぁー。・・・まぁけど茜がやりてぇならいいぜ。てかお前ってこういうのやりたいタイプだったか?」

「そういう気分なのっ!」

最後は少しバタついたが最初の作戦は成功に終わる。


その後も順調に進み、最終決定の時間となった。序盤は難なく進み、いよいよ二人三脚の選出の番が回ってきた。

「まずやりたい人だが、茜と涼のペアと橘と川上のペア、それと佐藤と鈴木のペアで決定でいいな?」

(よしよし、これで正念場は越えたな)

心の中でガッツポーズを作っていると、

「涼、お前監督の話聞いてなかったのか?部活動対抗リレーの準備があるから直前の二人三脚には出られねぇって言ってただろ?」

クラスのサッカー部員、田中が一石を投じる。

「あれっそうだったか?んじゃ今からリレー辞退するか」

「ばっか。部内で二番目に早いお前が抜けてどうやって勝つんだよ。先輩もみんなお前に期待してんだぞ。野球部には絶対に負けらんねぇって皆燃えてんだから」

「まじか、完全に忘れてたわ。悪ぃ茜。また来年おんなじクラスになれたらやろうぜ。」

(部活対抗リレー?そんなはずはない、だって本来の世界線では涼は真冬と出てたはずだろ!?たしか委員長が生徒会からプログラム変更の通達があったって言ってたような・・・)

混乱する俺を差し置いて、議題は涼が抜けた穴を誰が補完するか、といったことになったのだが、

「まぁ、駆でいいんじゃね?」

教室のどこかでそんな声が上がり、空気に逆らえなかった俺は、黒板に自分の名前を書くのだった。


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