第3話 自己紹介

今の俺ならば茜を勝ちヒロインに導ける。

そういう自信がある一方で、俺の身勝手な思いで物語を歪めてしまってもいいのか?という問いを自分に突きつける。俺が茜を勝ちヒロインにするために立ち回るということは、他のヒロインを蹴落とし、本来成就したはずの恋心すらも、この手で打ち砕くということだ。

それは今の俺が背負うにはあまりにも大きく、覚悟が決まらない要因だった。

俺は選ばなければならない。全員が笑って終われる。そんな桃源郷など世界に存在しないのだから。










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「私がこのクラスの担任になった一ノ瀬だよろしく頼む。」

担任が到着し、簡単な自己紹介と入学を祝した言葉を述べ、今後の連絡を済ませると、


「さて、退屈な話もこれくらいにしてお待ちかねの自己紹介にいくとしよう。そうだな。ここはオーソドックスに自分の名前と軽く趣味などを話してもらうとしよう。」

と、言い放ち担任が窓側最前列の生徒を指名し、

生徒の自己紹介が始まった。


俺にとっては自分の知識の照合に過ぎず、原作ではモブキャラと言われるキャラに至るまで俺は把握しているため、知らないキャラは居ないと言っていい。

程なくして俺の番がやってくる。


「僕の名前は夢見駆です。趣味はラ・・じゃなくてスポーツ観戦です。最近はサッカーを見るのにハマっています。これから一年よろしくお願いします。」


パチパチと拍手が起こる。

危なかった、危うくあの悪夢を再臨させてしまう所だった。

この世界ではそんなことは起きないと思いつつもトラウマというものは簡単に消えてはくれない。

そんなことを思っているとき、彼女の一言だ教室が静まり返る。


「氷宮真冬です。よろしく願いします。」


凛とした氷のような声と道行く人の誰もが振り返るであろう美貌、加えて高校生離れしたプロポーション。この教室の誰もが見入ってしまうのは無理もないことだった。それは涼も例外ではなかった。少しの静寂の後、誰かが手を鳴らし始めたのを皮切りに、俺の時とは比べ物にならない程大きな拍手が巻き起こった。


その後、自己紹介は順調に進み、いよいよお待ちかねの時がやってきた。


「夕陽茜です!気軽に茜って呼んでくださいっ!趣味は服やアクセを買ったりすることかなぁー?あと最近はハリーくんグッズも集めてます!これから一年間よろしくね!」


真冬のときと同じくらいの拍手が巻き起こる。

氷のようだった真冬とは違い、太陽の如く明るい声と笑顔に、またも教室の人々は魅了されていた。ハリーくんとは、茜が集めているハリネズミのキャラクターで、アニメ『頑張れ!ハリーくん』が子供や女子中高生の間で大ヒットし、今大人気のキャクターのひとつだ

自分の推しの布教が成功した時のオタクのようになっている俺を置いて、次は涼の自己紹介が始まる。


「夏目涼でいいます!みんなよろしく!趣味ってゆーか好きなことはみんなで楽しく笑い合うことかな!友達もいっぱい欲しいんでみんな気軽に声かけてください!」

こちらでも大きな拍手が巻き起こる。

誰もが思ったであろう、涼こそがこのクラスのリーダーだと。

なんだよ平凡ってと言いたくなる程の圧倒的コミュ力。イケメンだが、誰もが話しかけ易いようなフランクな話し方やスマイル。

圧倒的主人公力を前に思わず気圧される。

次の人がやりづらそうに自己紹介を始める。

(強烈な陽キャ二連発のあとはきついよなぁ)

その後も自己紹介は進み、終わりに近づいた頃。


「出雲麗華です。私の趣味は〜」

と、どこか懐かしいような声が耳に入る。

(あんなキャラいたったけ?まぁ30人もいれば1人くらい原作で触れられていないキャラもいるか。)

と、考えている内に、自己紹介は終わりを迎えた。


「今日はこれくらいにして委員決めなどは明日行う。各々やりたいものを考えてきてくれ。では、解散。」

連絡事項を担任が淡々と話し終えると、クラスでは早くもグループが出来始めていた。連絡先を交換する者、颯爽と帰る者、これからカラオケにでも行こうかと話す者、各々が高校生活の始まりを実感している中、ある人物が俺たちのもとにやってきた。













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