第2話 推し
1-Aと書かれた教室に入る。
がやがやと賑わうグループ、知り合いがいないのか一人己の席に座り、担任の到着を待つ者。
様々な人々が集う教室についた僕は黒板に張られた座席表に従い、指定通りの席に座る。
周りを見渡すことで改めて、”あぁ俺は俺デレの世界に来たんだなぁ”と実感する。
「席も近いなんてすごい偶然だな。」
「あぁ、しかも後ろのほうなんてラッキーだな。」
俺の斜め後ろに座る涼が声をかけてくる。
まさか席までも神がかっているとは。
この席は窓側一列目の後ろから二番目に位置し、斜め後ろに涼、後ろに氷宮真冬、隣に
入学したては出席番号順なのでは?と疑問に思うが、これも物語を円滑に進めるためのご都合ルールなのだろう。
そして何よりの豪運はこの席の隣が、俺の推しの茜だということだ。オタクにとって推しの隣で授業を受けれることは何よりも最高の環境なのだ。
夕陽茜、クラス一の陽キャ女子で、性別や年齢を問わず学外にも友人が多く、加えて
その事実に奢ることはなく、誰に対しても分け隔てなく優しい。俗に言うオタクに優
しい陽キャというやつだ。あぁ早く実物に会いたい。
そんなことを考えていると、
「やっほーー!涼。高校でもおんなじクラスとかこれもう運命!かもねっ!」
と、明るい声が聞こえてきた。
「おう!茜、また一緒だな。」
「いやーまたこれから涼のお世話をする日々が始まるのかぁ」
「はぁ!?世話なんかしてもらった覚えないけど!むしろ世話してんのはこっちだろ!」
最早お馴染みともいえる夫婦漫才に置いて行かれている俺を見た茜が
「ところで君は?」
と俺に尋ねる。
「僕は夢実駆って言います。」
「駆ねっ!あたしは夕陽茜って言うんだーよろしくっ!涼とはね~家が隣同士で物心がついた時からの幼馴染なんだぁ。こいつは昔っからあたしがいないとほんとにダメでね~」
知ってる。忘れるはずがない。幼馴染であり、中学生のころから涼に密かに思いを寄せているところとか、涼をからかうのも照れ隠しの為だとか。頬を掻くしぐさとか、
俺はすべてを見てきた。
自分の気持ちを押し殺し、涼の背中を押し、一人泣き崩れるところまで。
茜は程なくして真冬と友達になる。そう、なってしまうのだ。勝ちヒロインの初めての友達に。茜は涼と真冬の二人の友情と自分自身の恋心の間でせめぎ合い、何度も何度も悩み、苦しんできた。
そして最後には自分だけが涙を流す選択をとった。
茜ならばこの世界でもきっと同じことをするだろう。俺が好きになったのはそんな茜だから。でも、それならば俺はもう一度見なければならない。目の下が赤く腫れ上がった状態であるにもかかわらず、二人を祝福するあの光景を。しかも今回は近くで。そんな未来を想像するだけで俺には耐えきれなかった。この先を思うだけで目頭が熱くなる。
そのとき、ある一つの考えが思い浮かんだ。
物語のすべてを熟知した俺がいれば、茜を勝ちヒロインに導けるのではないか
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