恋愛転じて悔恨となす

カラビナ

未練

人生で3回、人を好きになった。


初めては小学生の頃だった。ほぼ六年間を同じクラスで過ごした少女に告白をされた。しかし当時の自分は友情はあれど恋愛感情を理解しておらず、なんとその告白に答えを出さずに離れ離れになった。今でもその選択を後悔している。きっと初めての自由な選択だったろうに、若き自分はその選択を間違えたどころか禁忌の選択をしてしまったと、老いた今なら理解できる。その子は東北へ移り住み幸せにやっているとの近況報告を聞いたとき、あろうことか不快な気持ちを抱いてしまった。選択を誤ったのは自分なのに、見知らぬ誰かと幸せに暮らしているその子を想像したとき、ゾッとした。結局のところガキの頃の約束はただの口約束で、言葉には永遠も絶対も無いのだと理解した。だが、今の落ちぶれた自分と一緒にいるよりは今のほうが幸せだろう……そう考えることで無理やり自分を納得させている。


2人目は中学の頃だった。部活の先輩だった。The文学少女といった風貌で、声の綺麗な人だった。これもまた今なら恋をしていたと分かるが、当時はその感情はなく、ただじゃれあっていただけだった。しかし知力が高く、声の綺麗な彼女に告白をしようとは思えなかった。中学といえば性的な知識を得る頃合いだが、俺はその人にそれをしたいと思えなかった。当時に戻れるとしても同じだ。性的な恋愛というより、所有したいとそう考えてしまうような感情だ。昔友達からその人を褒められたからか、その人と付き合ってるなどがあればマウントを取れる等という幼稚な考えに近いだろうか。今なら全く無意味だと思うし、そんな浅はかな理由で声をかけなくてよかったと安堵している。


3人目は現在進行系だ。バイト先の後輩だった。なんとなく話していると自分の深いところまで喋ってしまうような、安心感というか話のうまい人だ。しかし彼女には既に付き合っている人がいる。きっとそのまま結婚するだろうと思っていたが、最近仲良くなったからか彼氏についての愚痴をこぼすようになった。それがいけなかった。どうせどんな意見を言おうが別れるつもりもないのに、親身になって相談に乗ってしまった。自分としては別れてこっちに来てくれたら万々歳だが、己の惨めでちっぽけなプライドがその発言を許さなかった。彼氏と極力別れずに済むような方法や、時間が解決する旨を伝えたのだった。もし自分がもっと強靭な精神を持っていたら本心を伝えられたのに。

それにしても最悪なのは、彼氏持ちの相手にどうでもいいプライベートなコトをポロポロと零して挙句の果てにどうせ自分には振り向いてくれないなどと考えている自分自身だ。知ったからにはただでは済まさないなどと、その理論が通用するのはドラマの◯人シーンのみだ。ベラベラと喋ったことも、喋った相手も悪かったのだ。


きっと3度目の恋も未遂あるいは失敗に終わる。もはや恋を感じられるような相手も見つからないだろう。早めに書き殴って気持ちの整理をつけたかった。1人で死ぬのは怖いが、相手がいない以上死ぬ時は一人だ。それでもこの3人のうち誰か一人でも死に際を看取ってくれたらとそう思ってしまう。

他人は「アンタはまだ若いから良い出会いがある」

なんて気楽に言ってくれるが、自分には今しかない。今を生きるのに精一杯で未来のことなんて考えるヒマはない。そんな時に毎回このことを思い返すのだ。「俺は悉く選択を誤ったのだ」と。けれど同時にほんの少しだけこうも思う。「選択を誤ったなら次は違う選択肢を選べば良い」。人が言う良い出会いとは次のことだろう。その次が誰でいつ来るか想定できないから困るのだが……。

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