031 ボス戦③
激闘を終えた俺は、影法師を羽交い絞めにしたまま宙に浮かんでいる。
厳しい戦いだった。しかし最後の最後は天が味方をしてくれた。勝負は時の運とはよく言ったものだ。
ソラがしずしずと近づいてきて、俺に頭を下げる。
「ルイ様、惚れ惚れする戦いぶりでございました」
「うん。これ、なんで拘束できてるか分かんないけど、【金縛緊縛】ってスキル名にしようと思う」
「緊縛緊縛、素晴らしい技ですね。今度私にもかけてくださいませ」
「金縛緊縛、だ。緊縛緊縛だとただ緊縛しまくってるだけだから」
「私としては金縛緊縛でも緊縛緊縛でも構いませんが」
「なら緊縛緊縛緊縛でお願いします」
縛りまくってやる!
ただしソラに自分で自分を縛ってもらい、俺は鑑賞するだけになるだろう。なんだそれは。だが楽しそうだ。
リアが指を伸ばして、俺が拘束している影法師にちょんと触れる。
「いてっ。……少し生気を吸われました。ルイさんはなんともないんですか? ……そもそも生気がないからか」
納得したと頷くリア。
こいつ、また俺を幽霊扱いしている。
「で、どうしようか」
「成仏させてしまえばよろしいのでは? いつもされているように」
俺は影法師の頭をポカリと叩いた。普通の悪霊ならこれで霞となって天に昇っていくんだが、その気配はない。
「うーん……なんかこいつ、いくら殴っても成仏する気がしないんだよなあ」
ギミックで倒すボスなのでは?
てか何なんだよこいつは。
「待ってください……!」
ロビンが顔面蒼白、杖を正しく杖として使いながら寄ってくる。
震えていただけの貴公子は、俺と影法師の前にへろへろで辿り着いてそのまま膝立ちになり、紫紺の瞳を潤ませた。
「その子は、きっと、僕の婚約者です……」
ロビンはそう言った。
ああなるほど……。
とはならんわ。
誰だそれ。
……なんかそんな話をしていたような気がしないでもないが、どうだったろう。
――ルイ先輩の目ってきれいだ。
――はは、恥ずかしがり屋さんなんだね。
――あっ、すいません、ついタメ語が。なんか、ルイ先輩と話すとリラックスしちゃっうんです。不思議ですね。
脳内に溢れ出してくる記憶。
まずい、これ以上は戻れなくなる。
こんなのは俺の記憶じゃない!
首を振って消し飛ばす。
もっと楽しいことを考えよう。思い出せ、ミニスカ剣士とミニスカ魔術師とミニスカ後輩と過ごしためくるめく青春の日々――
を妄想していた日々。
「ロビンさん、説明してもらってもいいですか?」
リアがごく真面目な顔で問う。
ロビンが頷いて語り始めた。男の過去回想なんてくだらん。こうなったら女体化フィルターをかけるしかない。
女魔術師ロビンは豊かな胸をたゆんと揺らし、目を伏せたままぽつりぽつりと話す。
「私には婚約者がいたんです……名前はカリナと言って……」
ああ、そんな話だったね。
「悪くない関係性だったと思います。でも、カリナは死んでしまって……それで、私がルイ先輩と付き合い始めたから悪霊になってしまったのだと思います……」
「付き合ってねえよ」
ふうむ、ロビンイベント、古塔で終わりじゃなかったのか。わりと綺麗なエンドを迎えたと思っていたのだがどうやら続きものだったらしい。
てか、攻略対象キャラの元カノが悪霊になって襲い掛かってくるとかすさまじくない? どんな乙女ゲーだよ。
「どうしましょう……」
ロビンが弱々しく言う。
俺はめんどくさくなってきて、適当に言った。
「すっぱりフってあげればいいんだよ。もう新しい好きな人がいるんですって」
そんな感じじゃないの? 乙女ゲーなんてだいたいそんな感じでしょ。
「えっ、え、そんなの……急に言われても恥ずかしいな、あはは……」
「こっち見てモジモジすんな」
ロビンは頬をピンクに染め、後輩系男子らしい上目遣いを俺に向ける。こいつ、女体化フィルターを貫通してきやがった。
「なんて言わせたいんですか、僕に」
「俺が言わせたいわけじゃない」
「ルイ先輩はイジワルです。いつもみんなの前で僕をからかおうとしてくる」
「したことねえよ! 俺はそんなSっ気王子様系イケメンみたいなことはしない!」
「してくださいよ!」
何言ってんだこいつは。
「違う。俺への愛を口にしてほしいわけじゃない。リアへの愛を叫ぶんだよ」
ロビンと、黙って話を聞いていたリアが、うげげと顔をしかめた。
「なんでですか」
「なんでですか」
攻略対象キャラと主人公だからです。
たぶん俺がリアの立ち位置を奪ってしまったのがこんなことになってる原因だ。
よくよく考えれば、俺がロビンイベを拾ったのは間違いだった。なんとしてでもリアにこなしてもらうべきだったのだ。
この世界は乙女ゲーム。主人公と攻略対象キャラの関係性構築は攻略に必須だ。
カリナちゃんも、急に婚約者の同性愛趣味をカミングアウトされてもびっくりしちゃうよ。え、私のことはなんだったの、となるに決まっている。成仏どころじゃない。ますます悪霊化だ。
「頼むよ。本心じゃないってことは分かってる。とりあえずやってみてくれよ」
ロビンは形のいい眉を指で掻き、わざとらしくため息を吐いた。
「しょうがない人だなあ、ルイ先輩は。なんだか可愛いから従ってあげます」
う、うぜえ……。
なんでこいつ一々うざいんだ。
「お前たち? いったい何を話しているんだ? どういう状況だ? なんで羽交い絞めしてる?」
クレア教官がへっぴり腰で近づいてくるのだが、今はそれどころじゃない。
俺は影法師もといカリナちゃんの体を教官に向けてあげて、追っ払うことにした。教官は面白いくらいビビった。ははは。
「さあ、こい、ロビン」
俺はカリナちゃんと一緒に、ロビンと目線が合う位置まで降りていく。
さよならカリナちゃん。
成仏してくれ。
ロビンが強く頷き、カリナを見据えた。
「カリナ。……僕は君にいくつか嘘をついていたね。でも、君のことを素敵だと思っていたことだけは嘘じゃない。言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、僕は嘘を真実にしようとしてるんだ。……僕にとっても、君と過ごした時間は宝物だ。今日まで思い出さなかった日なんて一度もない」
間を置き、息を吸って、
「新しく、好きな人が出来た。心の底から好きだと思えるんだ。………………リア先輩っていうんだけど。でも君のことを忘れるわけじゃない。お墓参りも行くよ。君の好きな花を持って。だから、安心して眠ってくれ」
ありきたりでくだらん演説だったが、リアは雰囲気だけで泣いている。なんかそれっぽいぞ!
さて、カリナちゃんも満足しただろう。
俺はペチンと黒い頭を叩いた。
じゃあなカリナちゃん。
『嘘……嘘……嘘……』
だめだ。小声で嘘嘘って言い続けてる。
ここは乙女ゲーム。
やはり真実の愛が必要なのか?
面倒だな……。
……しょうがない。試してみよう。
「テイク2だ。俺の名前を出していい」
ロビンが目を輝かせた。輝かせるな。
「好きだ! ルイ先輩! 好きだ好きだ好きだ! ごめんよカリナ、君のことも好きだったけどもっと好きな人が出来たんだ! 忘れるわけじゃない。僕の初恋は一生カリナだ。でも、僕は前を向いて生きていくよ。見守っていてくれ」
カリナちゃんは小さく震えだす。
『こいつは幽霊よ……』
地の底から這い出すような声。
『なんで私じゃだめなの……なんでなんでなんで! 幽霊でもいいなら、私でもいいでしょッ!』
グラリと地面が揺れた。カリナが揺らしているのだ。だめだ、成仏しそうにない。
――なるほど、恋敵が幽霊だったから成仏できなかったわけだ。
それはそれとして。
「俺は幽霊じゃねえよ!」
俺はカリナの腕と首根っこを掴み、一本背負いの要領で、全力で地面に叩きつけた!
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