第7話 魔王転生

 魔王の首が床に転がるのを見て安堵した瞬間、魔王の体が異常に膨らみ始めたの。


 アレックスは背中の盾を構えるのが精一杯。


 黒い光が一気に放出され、その力でレオンハルトが吹っ飛んでいくのが見えたわ。ビンゴは咄嗟に反対側に技を掛け、力を相殺させながら床を転がったわ。ゾルタンはその頑強な体で受け止め、オルフェに至っては、最早どうなったかもわからなかった。


 全てが終わった後、最も魔王のいた場所近くに立っていたのは、アレックスだったわ。返り血を最も浴びていた。タールのようなぬめりのある体液。それも時間が経つと消えた。


 ──思い出すだけでもぞっとする、あの嫌な光景。アレックスも同じ思いね。その皺だらけの顔を、節くれだった手で拭った。思い出したくもない記憶を拭い去りたかったの。


「……自爆ですか」

「うむ。魔王の死を確認したわけではない。どれ、ついでに面白いものをくれてやろう」


 アレックスは袋の中から、紫水晶のようなものを幾つか出した。


「魔王の欠片だ。爆発した後、儂の盾に突き刺さっていた。こいつで、儂らを皆殺しにしようとしたのだろうな」


 不思議な水晶。

 弾力がある。

 ゆっくりと触れば硬いが、勢いよく触ると水のように形が崩れ、指が離れれば元に戻る。


 アタシたちの攻撃が当たった気にならない仕掛けはコレだったというわけ。


「恐らく、魔力によって硬さが変えられるのだろう。無数の礫のようにゾルタンの体には突き刺さっていたし、これをまともにくらった例の神官は死にかけている」


 アレックスは天井を指さした。


 二階には腹を抉られた神官が横になっている。その傍らには、きっとあの剣士の男の子が付き添っていることでしょうね。


 彼女が生き残った唯一の回復専門職。それを失った私たちは、手持ちの薬草だけで、なんとか城を脱出したわ。


「これが儂の知る魔王戦の全てだ」

「この石はお預かりしても? 魔導士の方々に聞いてみます」

「それがよかろう。だが、気を付けろよ」


 言外に「魔導士たちアイツらも怪しいのだろ?」と含ませている。騎士団長は心得たように頷いた。


「ひとつ頼みが」


「なんじゃ? 言うてみろ」


「あなたが最も魔王に遠いと考えています。もしも私がやられた時は」


「……逃げろと?」


「いえ。ここにいる全員を皆殺しにしてください」


「馬鹿を言うな」


 即答。


 アレックスが考えていることはわかるわ。

 ひとつは、果たして自分に全員を倒せる技量があるか。

 もうひとつは、この騎士団長は全員に、同じことを言うってこと。

 つまり、アレックスは、結局、ここにいる誰かと戦わされるわけよ。


 騎士団長はこちらの反応を見たいのか。それとも、本気で言っているのかまではわからない。


 ある意味、この騎士団長が一番の魔王ね。誰かわからない場合は全員が死ぬほうが解決に近いと考えているに違いないわ。


 でも、それは諸刃の剣。アタシのような片刃の斧には到底考えられない話だわ。

最後の一人が魔王だった場合、アタシたちだけでは、太刀打ちができないかもしれない。


「相手は心の弱さを狙ってきます。不安や怯え、負の感情に囚われないように」


「儂がそのようなものに取りつかれると思うか?」


「自信は過信と隣り合わせです。平常心をお保ちください」


 馬鹿にするなと言いたげにアレックスは鼻を鳴らした。


「魔王は、まだ人の状態なのか?」


「え? ……はい。恐らくは。この先までは分かりません」


「よかろう。引き受けた。人の状態であれば、斬れなくはない」


 アレックスの返事に騎士団長は深々と頭を下げ、アレックスは騎士団長に剣を返した。


「これから、どうする気だ?」


「朝まで一人一人の部屋を、訪ねて、怪しいものがいないかを探ろうと思っています」


「酔狂なことだ」



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