第6話 最終決戦

 ──ノックの音で、アレックスもアタシも我に返った。


「どなたじゃ?」


「私です。南軍騎士団のシルヴィアです」


「騎士団長殿か? どうかされましたかの?」


「少々、お話をお伺いしたくて」


「お待ちくだされ」


 声とは裏腹に、既にアレックスはアタシを引き寄せ臨戦態勢。


「では、ドアを薄めに開け、先に剣だけを入れてもらえぬか?」


 声は柔和だが、下手な動きをしたら、ドアごとあの女を叩き潰す気だ。


 アレックスだって名誉のために戦ったわけじゃないけど、魔王を討って挙句に騙し討ちじゃあ、あんまりでしょ。もちろん、ここで丸腰にさせられることが、どれほど危険なことかもアレックスはわかっている上でのこと。


 それでも、相手を試さざるを得ないの。そういう状況。


 信用して欲しいのであれば、信用されるに足る度胸を示さないとね。


 しばらくしたら、剣だけがそっとドアの隙間から入ってきたわ。

 その剣を、アタシを使って、器用にひょいと引き寄せると


「すまぬな。どうぞ、入られるがよろしい」


 と扉の外に声を掛けた。

 この用心深さも、アレックスが生き延びてきた重要な資質。口癖のように「死んだ奴は、最後に一度だけ油断した奴」と言っている。


 剣にも意識があるのかしらね? ちょっと生意気そうな不遜な態度の剣。持ち主とは真反対の性格ね。剣と斧で会話ができたらよかったんだけどね。


「この用心深さもドワーフ特有のもの。気を悪くなさらんでくれ」


「いえ、こちらこそ。役目とはいえ、皆さまを疑わざるを得ない状況ですので」


「儂が魔王だったら、どうするつもりだったのだ」


「……その時は……その時です」


 あー。この騎士団長は確実に早死にするタイプね。

 アレックスは愉快そうに微笑んだ。これでも最大限の感情表現よ。この人が笑うなんて、滅多にないこと。騎士団長の度胸に敬意を示したということね。


「で、何が聞きたい」


「魔王との戦いを詳細に」


「記録結晶を読み取ればよかろう? 儂らの記録結晶は提出したはずだ」


「テオドールさまによると、記録は読み取れても、記憶は読み取れないそうでして」


「……迂遠なことよ」


 思い出したくもない嫌な戦い。決して楽とは言えない戦い。


 北軍は軍とは名ばかり。それぞれが数名の小さな部隊で構成されていたわ。少数精鋭というより、単独行動に近い。最低限の役割分担こそあったものの、魔王の部屋にたどり着くことができたのは奇跡と言っていい。多くの仲間たちが途中で殺されていった。


 途中まで一緒だった、シノブやゼフィルたちともはぐれ、ゴーレムから追われるように逃げ込んだ部屋が、魔王の間。そこには双剣将軍ゾルタンとその配下の何人か到着していて、魔法剣士のオルフェが魔王に挑んでいる最中だった。


 仲間の窮地を見て、疲れ切った体に鞭を打つようにアレックスは魔王へ走り出したわ。


 ゼフィルに掛けてもらっていた魔法防御も、効き目が弱まっていたけど、そんなことは怯む理由にはならない。満身創痍でゾルタンが周りを励ましながら、主にオルフェとアレックスとゾルタンで魔王の隙を作りながら戦ったわ。


 でもアタシとアレックスは気付いていた。アタシたちの打撃は、魔王にとっては蚊に刺されているくらいに過ぎない。物理耐性が高いなんてものじゃないわ。物理攻撃無効化がされているんじゃないのかってくらい、手ごたえがなかったの。打ち込んでも打ち込んでも、まるで煙を斬っているよう。


 オルフェが時折放つ魔法攻撃も多少時間稼ぎをするくらい。

 三人の疲労は限界まで来ていたわ。ここまで来るのに、その力の大半を使い切っていたんだもの。それで、こんな手ごたえのない相手と戦うのは無茶。


 足元には、仲間の死体が転がって、アレックスもそちらの仲間入りをする寸前だった。


 そこへ、レオンハルトが参戦して状況が変わった。

 レオンハルトが振るう剣は、魔王にも効果のある魔法武器だったらしい。


 だが、そこからが魔王も強かった。


 魔法攻撃も加え、狙いも正確になった。


 そのうち味方の遠距離魔法が加わった。最早、このタイミングになると誰が参戦しているのかもわからないわ。後ろを振り向く余裕もない。矢が飛んだのはあの西エルフの娘が参戦しているせいだということだけはわかった。


 そして最後は一瞬の隙だった。誰かが膨大な量の光の矢を降らせ、魔王をほんの一瞬だけ怯ませた時、レオンハルトの大剣が魔王の首を刎ねたの。


 その返り血をアレックスは大量に浴びた。

 アレックスはあの場の出来事をつぶさに語り、騎士団長は詳細にメモを取った。


「なるほど。それで魔王は倒されたと」


「いや。まだ続く。……このせいで、儂も、本当に魔王を倒したのか……自信が持てないでいる。特にお主に言われてからは、少し確信めいている」


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