「この中に魔王がいる」

玄納守

処刑

第1話 処刑者の剣

「皆さん。落ち着いて聞いていただきたいのですが」


 シルヴィアの張り詰めた声に食堂に居並ぶ面々が、一斉にこちらを向いた。

 その威圧感にシルヴィアは気圧されのだろう。小さく咳払いをした。


 王宮から遣わされた女騎士団長が何を言いだすのかと、皆がシルヴィアを見つめている。


 なにせ魔王討伐に成功した直後だ。恩賞の話か。それとも凱旋パレードの話か。


 この食堂にいるのは魔王討伐軍北方戦線の幹部。総勢十三名。

 これとは別に、あてがわれた部屋に瀕死の神官が一名。

 そして、いま、この屋敷に向かっている戦士がもう一人。


 彼らは通称『北軍』と呼ばれている。

 王国の正規兵ではない。傭兵や義勇兵、元は冒険者の類の寄せ集めだ。


 だが、その寄せ集めが、魔王城を陥落させ、魔王を倒した。間違いなく彼らの功績だ。その顔つきは、歴戦の猛者そのものだった。


 この北軍の幹部たちにどうしても伝えなくてはならないことがある。そのためにシルヴィアは王都から派遣されたのだ。


 シルヴィアが私を握る力が強くなった。明らかに緊張している。

 革製の籠手越しにシルヴィアが汗を掻いているのがわかる。この冬の山荘に居ながら、シルヴィアは汗を掻いていた。


「この中に……魔王がいます」


 シルヴィアの言葉は静かだが、確実に、食堂の空気を一変させた。


 空気が一瞬でざらつく。

 それは戦場を思わすほどの殺気。


 ある者は席を蹴って壁に張り付き、ある者は立ち上がるなり剣に手を掛け、ある者は視線を他の者に注ぎ、そしてある者は沈痛な溜息をついた。


 直前までの穏やかさは完全に消え、明らかな緊張が、食堂を支配した。


 ここが正念場だ。私はシルヴィアとともに、そこにいる面々を睨みつけた。


 もしも誰かが一瞬であっても「始める」素振りを見せれば、たちまち止められない殺し合いになる。私もシルヴィアを守るために全力を尽くすことになる。

 ……いや。守るのは王国だ。この世界を守るのが私の役目だ。


 ──私はシルヴィアの剣。『処刑リヒトシュヴェーアト』という名がつけられた剣だ。騎士団長シルヴィア・アイゼンハーツの剣にして、王国に仇するものを誅する剣でもある。


 食堂にはやけに長い沈黙だけが、漂った。





★★★ 作者より ★★★

 集英社IPコンテストで一次通過したまま未完だった作品です。

 IPコンテストの箇所まで掲載します。蔵出しです。

 宮部みゆき先生の「長い長い殺人」を異世界ファンタジーでやったなら? という作品です。

 結末までのプロットはあるので、読者がいれば、最後まで書いてみようかな?


 まずはお楽しみくださいませー

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