第17話:風呂キャンセル女子高生の香ばしい臭いに隠された秘密

放課後。

いつものように教室でプリントをまとめていると、不意に――鼻が反応した。


(……あれ?)


空気の層の中に混ざる、微かで、でも確実にいつもと違う匂い。


石鹸でも香水でもない。

制汗剤とも違う。


それは――


**「一日中、汗を吸った制服と髪、そして皮膚から立ち上る“風呂キャンセル系女子”の自然香」**だった。


「……あ」


入口に立っていたのは、白神ルナ。


今日も陽気で元気なツインテールの彼女は、汗でわずかに髪の毛が乱れ、襟元もいつもより緩んでいる。


「おつかれー白井! いや〜、今日も暑かったよなぁ!」


「ルナ……なんか、今日ちょっと香ばしい」


「えっ!? うそ!? まさかバレた!? って、なにが!?(反射的に開き直る)」


「お風呂、入ってないでしょ」


「な、な、なんでわかんの!? スゴすぎて怖いんだけど白井鼻神!!」


あたふたするルナの動きとともに、僕の鼻にはさらに詳しい情報が流れ込んでくる。


(……脇汗由来のアンモニア微量、髪からは皮脂と整髪剤が混ざった“翌朝の寝癖臭”。そしてシャツの繊維に染みた、ベビーパウダー系ボディシートの“応急処置”跡)


「しかも、今日は髪を洗ってないね。湿度で皮脂が再発香してる。あと、体拭いたろ? ベビーパウダーの香りで“応急誤魔化し”してるけど、隠せてないぞ」


「ちょっ、分析すなぁあぁぁぁああ!! 恥ずかしさで鼻から汗出てくるんだけど!」


ルナは顔を真っ赤にして、椅子の後ろに隠れる。


でも――その時。

ふとした風の流れで、別の匂いが僕の鼻先をくすぐった。


(……ん?)


ルナのシャツの袖から、ほんのりと立ち上がる匂い。


それは、ただの汗の香りとは違っていた。


微かに、鉄と薬品の混じったような、どこか“医療系”の匂い。


(これは……湿布? いや、違う。“消毒液の古びた残り香”)


僕はすぐに、ある仮説に辿りつく。


「ルナ、どこか怪我してる?」


「……え?」


彼女は、ぴくりと肩を揺らした。


「昨日の夜、バイクでちょっと転けた……みたいな?」


「“みたいな”じゃないだろ。お風呂サボったのは、それが理由?」


「……そう。肘すりむいてて、水がしみそうで怖くてさ。だから、ボディシートで誤魔化して寝たの」


彼女の言葉に、僕は頷いた。

香りの意味が、すべて合致した。


「なるほどな。匂いって、体からの“無言の報告”みたいなもんだよ。痛い、怖い、しんどい――言葉で言わなくても、伝わるから」


ルナは苦笑して、僕の顔をじっと見た。


「……ねぇ白井。私のこと、やっぱり全部バレてんだね。ちょっと怖いけど……ちょっと、嬉しいかも」


「そりゃ、鼻で生きてるから」


「じゃあ今の私の“気持ち”も嗅いでよ?」


そう言って、彼女は照れ隠しのようにニカッと笑った。

その笑顔の裏に、**いつもより少し“甘い香り”**が混ざっているのを、僕の鼻は確かに感じ取った。


 


香りは、嘘をつけない。

“お風呂キャンセル”の奥に隠れていたのは、ほんの少しの不安と、ほんの少しの恋心だった。


 


つづく。

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