第7話 胸騒ぎ
頭に鈍い痛みが走った。
蹴られたんだと気付いた時には
頭に温かい物が流れた後だった。
ぬるぬると伝うそれは自分の血だった。
アリーシャがなにか叫んでいる。
──にげろ…
声を出そうにも何も動かない。
腕にさらに鋭い痛みが走る。
でも、そんなことはどうでもよかった。
黒い影が自分に悪意を、向けてるうちに
逃げて欲しかった。
こんな場所に連れてくるんじゃなかった。
自分の浅さかさに怒りを覚えた。
いきなり殴られたんじゃ
詠唱もなにもあったもんじゃない
アリーシャを危険な目にあわせて
馬鹿だ
「嫌だ!嫌だ!エル!!嫌だぁぁ!!」
アリーシャの慟哭が聞こえる
その時
体が温かい物に包まれた。
辺り一面、白く光り輝く
その瞬間体が軽くなった
死んだ?
いや、違う!!
体が動く?!!
「っアリーシャ!!!!」
体を翻し、一瞬のうちに詠唱を詠む
男がアリーシャに殴りかかろうとしていた!
「てめぇ…………!!」
体の底から怒りに震える!
ありったけの
雷が男を貫いた
断末魔の叫びが耳に残る。
黒焦げになった男が横たわる。
辛うじて息はあるようだ。
アリーシャをボロボロにした奴に
生きる権利はないが、
彼女の目の前で
人殺しまではできなかった。
お人好しの彼女は、こんな奴でも
きっと胸を痛める
それに耐えられなかった。
「え、はっ、エル?無事?怪我はっ?!…」
アリーシャの、息が浅い。
駆け寄ってくる彼女を抱きしめて
自分の体の異変に気付く
血でベトつく頭にふれる、刺された腕にも触れる
痛みがない。それどころか傷跡もない
まるで
一瞬で回復したみたいに…
「馬鹿だ!アリーシャは本当に!!
なんでにげなかったんだ!
殺されるところだったんだぞ!」
嫌な予感がする。
「エルが無事で……よか…よかったぁあ」
アリーシャが泣き崩れる
魔法を学ぶ際に
どこかで読んだ。
国の安寧のために祈りを捧げる聖女の存在を
この国の女性は15才になると聖女の適性検査をうける。
そこで選ばれた者は国の義務で神殿にて祈りを捧げる。
たまに他の者と比にならないほどの力をもつ聖女がいると。
どんな病も怪我も回復させるほどの、聖力をもち、
その力はさらなる強大な結界もはる。
非常に希少価値があるため
神殿で一生を終える。
つまりは利用価値があるため
神殿で買い殺されるのだ。
あの暖かな
白く輝く光は
もしかして…
そこからは
屋敷が慌ただしかった。
皆が駆けつけたときには、黒焦げの男と、血だらけの子ども二人。
だが、
一人は傷一つない。
アリーシャの力を隠しきるには
二人は幼すぎた。
噂を聞きつけた、神殿の使いが
アリーシャを攫うように連れて行った。
この領地の一人娘、跡継ぎだというのも
無関係だと言わんばかりに
『エル、私聖女なんだって、信じられない。』
お人好しな、アリーシャは国の人のためだといえば、喜んで祈るだろう。
『私もエルと同じ王都に行くんだって、向こうであえるかな』
『エル、先に王都で待ってるね』
聖女は、自分の体は癒やせないようで
男に蹴られた傷が痛々しく残ったまま
別れを惜しむ間もなく、
この地を離れた。
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