闇と光のわたしとわたし

いとい・ひだまり

闇と光のわたしとわたし

 夜、偶に不安が増す。

 どうしたらいいのか分からなくて、どうするべきなのか信じられなくて、わたしは重い胸を抱えたまま眠りにつく。


 そんな時、決まって同じ夢を見る。


 闇。


 それから逃げる夢。

 どうしても怖かった。どうしてそんなに怖いのかも分からないまま、わたしは夢の中で闇から逃げ続けた。逃げて、逃げて、逃げて……。

 それでも闇はわたしを飲み込もうとどこまでも追ってきた。



 ――今日も同じ夢。

 わたしは走る。闇が追いかけてくる。


 もう嫌。怖い。逃げたい。逃げなきゃ。

 逃げなきゃ。


「あっ」


 つまづいて、転んだ。闇がわたしを飲み込もうと包囲する。もう駄目だ。

 わたしは受け入れた。


 ――とぷん。


 暗闇に飲まれたのに、そこは案外あたたかかった。



 目を開けた。

 そこには何もない静寂の水面だけが広がっていた。


 振り返ると、誰かが……いえ、わたしがいた。

 泣いていたの。


「どうして泣いているの?」

「あなたが、わたしを一人にするからよ。わたしのことを、見てくれないの」


 ぐすんぐすん、とこぼれる涙を拭いながらあなた――わたしは言った。

 その時、わかった。


 きっとわたしは怖かった。

 受け入れることを拒否してた。


 わたしは……わたしを認めるのが怖かったのよ。


 だって、不甲斐ない部分も幼稚な部分も、全て曝け出さなければならなかったから。


 けれど、世界で唯一なの。こんなに近い存在は。


「泣かないで」


 わたしは言った。


 この静寂の水面……それはわたしの心の奥深く。いるのは、わたしとあなただけ。

 あなたと話をしなければ、わたしは前へは進めない。


 近いから、同じだから。

 だから分かる。

 だから一つになれる。


「もう一人にしない?」

「しないよ」


 そう言って、手をとった。

 水のように美しくて、ほんのりとあたたかい。


「ねえ、お願いがあるの」

 あなたは言った。


「わたしはあなた。あなたはわたしよ。この世界で一番近い、あなたのともだち。

ねえ、だから、一番のわたしに、全部を見せて。

ほかの人に言えなくってもいいの。言わなくってもいいの。言えないことも、わたしと話して、進んでいこう。


それから、あなたは全部を受け取って。わたしという存在の全てを。

痛みも、重みも、愛も、喜びも、全部を。その全てを『あなただ』って許してほしい。

愛してほしいの」


 あまりに思っていたことが、言えていなかったことが多すぎて、わたしはその全てを受け止めきれなかった。

 でも、あなたは言ったの。


「大丈夫。いつかあなたが『ああもう大丈夫よ』ってわたしをハグしてくれる日を信じて、わたしも前に進むわ。だから、今はありがとう。わたしを見つけてくれて」



 ――目が覚めると頬の辺りが濡れていて、白い空が見えた。

 それから、わたしの胸はいつもよりずっと軽かった。




      *




読んでくださりありがとうございます(*꒡ ꒡ )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

闇と光のわたしとわたし いとい・ひだまり @iroito_hidamari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ