第5話 過酷な世界?

 ステータスを出す努力は諦めた。とりあえず立ち上がり状況を把握に努めよう。

 俺は立ち上がって周りを見回す。


 そこは荒れ果てた岩と石と砂の砂漠だ。


 空は薄曇りで遠くまで見渡しても緑(植物)は見えない。ただただ荒涼と広がる大地。多少の起伏はあるようだ。

 建物も植物も見えない大地だが、少し離れた場所に人が居るのが見えた。


 よく目を凝らすとあちこちに居る。どう言う事だ?高校生トリオの召喚に巻き込まれたモブは俺だけじゃないのか?


 目が慣れてくると、倒れている人、立ち上がりキョロキョロしている人、座り込んでいる人などが見えた。

 高校生トリオ、モブを巻き込みすぎじゃないか?


 少しずつ立ち上がる人が増えている。どうやら集まろうとしているみたいだ。


 俺も、向こうと合流しようかと考えた。その時高校生トリオの男子の声が耳に入った、



「スライムだ」



 高校生(仮にA)の声に、俺は3人の方を振り返った。またキモイと言われるかも知れないが、『スライム』への興味が勝った。

 定番の勇者召喚に定番魔物のスライムか。


 見ると、Aの近くの岩の下からのべぇっとした水たまりがこちらへと移動してくるのが見えた。



「おい、離れろ」


「えっ?」



 俺は咄嗟に叫んだ。


 日本人はどうも平和ボケ、危機管理能力が低い!

 以前のテレビの実験だったか、非常ベルが鳴っても誰も席を立たないのを見て驚いた。


 Aがスライムへと手を伸ばそうとしていたのだ。



「触るな、それが何かわかるまで距離をとれ」



 今まで人から怒られた事が無かったのか、少し鼻じらんだ表情をした。

 だがスライムから距離をとったので安堵したら、足元の石を拾ってスライムへと投げつけた。



「おい…」



 俺らがそれをスライムと呼んでいたのはゲームでいうところのスライムに似ていたからだ。

 まぁ、ゲームでもファンタジー小説でも当たり前のように出てくる序盤の魔物。魔物、と言うには弱すぎる生物だ。それに似ていた。

 薄茶色のゼリー状、かなり水っぽい感じはする。目も口も手足も触覚もない。


 だが、高校生Aが投げつけた石は、スライムに当たった瞬間にじゅわっと蒸発した。そう、まさに蒸発。

 かなり強い酸性か。



「おい、離れろ! 距離を取れ」



 動かないAの腕を背後から掴み後ろへとひいた。

 スライムは地面の石を溶かしながら進んでくる。ただ、動きが遅いのが幸いだった。

 そいつの腕を掴んだまま、残りふたりにも後ろへ下がるように言った。



「おい、おまえら、スキル取ったか?」


「あ、」


「えと」


「何とった? 防御系か?」



 下がりながら足元を確認する。あっちのスライムを気にするあまり、別のスライムを踏んだら笑えない。

 俺らはじわじわと下がった。


 なるべく岩も石もない平らな場所へ。さっきのスライムは岩の下から這い出てきたからな。


 かと言って砂地はもっと嫌だ。下から何が出てきてもおかしくない。

 日本の海岸の砂地でも時には危険な生き物がいるんだ、この変な世界では何が出てくるかわからない。

 って、ここどこだよ、何でこんなとこに居るんだよ。


 パニックになりそうな自分を落ち着かせる。落ち着け、慌てたら負けだ。

 あ、あそこ、堅そうな岩盤っぽい地面が見えた、あそこまで下がるぞ。



「あの、腕……痛いんだけど」



 高校生Aの腕を握りっぱなしだったようだ。



「すまん。あそこまでゆっくり下がるぞ?」



 広めの岩盤で出来た地面に乗り、少しホッとした。

 さっきのスライムを探すと、俺たちを追ってくるのはやめたようで別の方角へ進み始めていた。


 別の方角……。

 そこには俺たちから1番近くにいた4〜5人の、スーツを着た人達のグループ。



「ねぇ、あの人達に向かってない?」



 女子高生が気がついたようだ。



「助けた方がよくない?」


「助けるってどうやって? 俺たち武器持ってないぞ?」


「そうだけど、そうだ! スキルは? 私、物理攻撃……かっこ微、ねぇ、微って何?」


「俺も物理攻撃(微)だ……ドドスケは?」


「あの一覧って物理攻撃しかなかったじゃねぇか。俺も物理攻撃だよ。しかも微」


「だから微って何よ」


「微小って事……だよな?」


「たぶんな。微々たるの微」


「えー、ビミョー」


「うん、その微」


「おっさんも微々たる攻撃だろ?」


「あの一覧表さ、選択っぽく見せてるけど同じのしかないなら、普通に強制配布で良くない?」


「わざわざ30秒で選ばせるとか」


「あ、でもグレーになってたとこあったよ? 数に限りがあったんじゃない?」


「え、じゃ、俺らラッキーじゃん。3人とも獲れたし。微々攻撃。あっ、まさかおっさん、獲れなかった系かよ」


「うわぁ、スキルなしで異世界転移?」


「ねぇ、これ、異世界転移なの?」


「わからん。けど、導入部がそれっぽいよな?」


「何、導入部って。どんな部よ。ドドとクサはオタクだからわかりあえてるけど、私は一般人だからね」


「倉田はBLじゃん」


「うわっ、やめてぇ! イケメン以外の口からBLとか言わないでよ!」



 若いって羨ましい。俺まだ27だけど、そうか高校生16〜18にしたら10歳も上なんだな。



「あの、ところで自己紹介とかするか? ええと今の会話で女子高生ちゃんがクラタさんで、ふたりがドド君とクサ君?」


「「その名で呼ぶな!」」


「倉田美智です、高2です」


「小宮圭介、2年」


「加瀬秀。臭いじゃなくて秀でるのしゅう。倉田とドドと同じクラス」


「ああ、もしかして小宮君がドドってケイスケのけいは土ふたつか。あ、自分は大島大吾だ。今時はあだ名禁止とかよくテレビでやってたの見た事あるけど、そうでもないんだ?」


「一応クラス内では表向き禁止ですよ? でも友達内じゃあるよな?」


「うん。君とかちゃんもダメで、さん呼びとかキモ」


「あ、俺、一応サン呼びにした方がいい? 倉田さん、小宮さん、加瀬さん」


「きもきもきも。呼び捨てでいいよ、おっさ…大島さん」


「うん、私も。イケメン以外からさん呼びとか気持ち悪い」



 のんびり紹介し合ってる場合ではなかった。

 数カ所から同時に悲鳴が上がった。さっきスライムが向かった方と、それ以外からも。

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