ラストオーダーは君だった

紡音(つむね)

第1話 ミルクティーをもうひとつ

「……やっぱ、君だったんだ」


その声がした瞬間、

アイスが溶ける音すら止まった気がした。


振り返らなくてもわかった。

この空気。

この気まずさ。

この、“会いたくなかったのに会っちゃった”感。


「よ。元気そうだね」


カップを置く音が、少しうるさかった。


「最後に会ったの、いつだっけ。あの駅前?」


「3年前」


僕は言う。

即答できたのが、ちょっと悔しかった。


「そのあと、LINEも何も既読にならなかったからさ」

「消したからね」

「やっぱり?」


苦笑が混じる。

なんだろう、この会話。


あのときは何も言えなかったくせに、

今ならこうやって話せるのか。


しかもよりによって、

このチェーン店の、閉店ラストオーダーで。


「……なに頼んだの?」


「ミルクティー。あの日と同じやつ」


「まだ甘ったるいの好きなんだ」


「君も、相変わらずだね」


笑った顔が、

なんかちょっと、大人びて見えた。



この距離感。

この時間。

もう二度と来ないってわかってるからこそ、

言えそうなことが、ひとつだけあった。


「……あの時、手、伸ばせばよかったね」


「伸ばされたら、たぶん泣いてたよ」


ラストオーダーは、ミルクティーだった。

でも本当は――

君の声が、最後の注文だった気がする。

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