第3話 side:封印組織・封月

 柊正宗がスイーツを食べている間、ネットで拡散された動画がとある組織の目に留まっていた。


 封印組織・封月ほうげつ


 妖刀を封印、管理する、秘密組織だ。


 本来は歴史の表舞台に上がることはなく、徹底して秘匿される存在なのだが、とある事情により、活動を活発にさせていた。


 絶大な能力を持った12本の妖刀、そのすべてが、組織を離反した者たちによって盗み出されてしまったのだ。


 そのため、封月ほうげつでは奪われた妖刀の行方を捜すべく、全力で情報収集にあたっていた。


「どうしたのかね、緊急の呼び出しとは……」


 急遽本部に召集されたことを受け、幹部の男が悪態をつく。


 奪われた妖刀は12本。そのどれもが、ひと振りで国を傾けるほどの力を持つとされる、特級戦力だ。


 その所在が行方不明となっている今、余計なことに時間を割いている余裕はないのは明らかであった。


「東条や姫宮が離反した今、ただでさえ人手が少ないのだ。つまらない話なら、帰らせてもらうぞ」


 気だるげな一同をぐるりと見回し、壮年の男が口を開いた。


「新たな妖刀が見つかった」


 弛緩していた空気が、一瞬にして引き締まっていく。


「!?」


「なんだと……?」


「バカなっ……!」


 ひと際体格の大きい男が立ち上がる。


「1000年間、妖刀は12本と記録されていた。13本目があるなんて、ありえないだろ!」


「ああ。大方、敵の虚報ではないかね? 我々を攪乱しようとしているとか……」


「見たまえ」


 壮年の男がスクリーンに映像を映し出す。


 そこには、男子高校生が黄金の剣でトラックをバラバラに切り裂く様子が映し出されていた。


「顔まではわからないが、解析部隊はこれを紛れもなく“妖刀”であると断定した」


「妖刀……!?」


「黄金に輝く妖刀……〈紫電しでん〉!? いや、〈褐灼かっしゃく〉か……?」


「トラックの断面を見たまえ。……高エネルギーで両断されたものとは違う、純粋な刃の切れ味で斬られたものだ」


「……!」


「〈紫電〉とも〈褐灼〉とも違う。……これまで見たことのない、未知の妖刀だ」


 驚愕の報告に禊華の幹部たちがどよめいた。


 1000年もの間、12本とされてきた妖刀。そこに、新たに13本目の妖刀が出現したのだ。


 妖刀を守護する封月と、妖刀を奪った告遡こくさく


 13本目の妖刀が、妖刀を巡る両者の戦いの台風の目となることは明らかであった。


「……それで、妖刀の持ち主は特定できたのか? ……我々を招集したのだ。当然、これで終わりではないだろうね?」


 続きを促されると、壮年の男が動画の一部を拡大した。


「顔までは確認できなかったが、事件の起こった現場、特徴的な制服から学校までは特定できた。――香陵学園。そこに13本目の妖刀を持つ男がいる」


「あとは、いかにして妖刀を手中に収めるか、ですな。これまで徹底して秘匿された13本目の妖刀なのだ。素直に引き渡して貰うというのは……難しいだろうな」


「いっそのこと、雇ってみるのはどうだね? 連中は12本もの妖刀を所持しているのだ。少しでも戦力差を埋めたい。金で味方に引き入れられるのなら、安いものだ」


「……どうかな。猟犬を飼ったつもりが、狼を招くことになるかもしれない。対応を誤れば、食い殺されるのは我らかもしれないのだぞ?」


 13本目の妖刀を巡り幹部たちの会議が紛糾する中、壮年の男が口を開いた。


「……我々の役目は妖刀を封印し、守護することにある。……その在り方は、妖刀を奪われた今でも変わらん。……違うかね?」


 男の言葉に、幹部たちが押し黙る。


 封印機関・封月ほうげつの役目は、妖刀を封印し、守護することにある。


 1000年前から変わらず、時の権力者が変わってなお、貫かれてきたのだ。


 その在り方は、封月ほうげつ封月ほうげつである以上、崩してはならない一線であると言えた。


「……決まりだな。では、任務を与える――雪凪セツナ


「はい」


 雪凪セツナと呼ばれた少女が、一礼と共に部屋に入ると、幹部たちの前に出る。


「香陵学園に潜入し、妖刀の持ち主を特定、回収しろ」


「はっ!」


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