第三章:神々の血脈

第11話 転生の記憶


 東京の街は、機械兵士の蹂躙じゅうりんによって、見る影もないほど変わり果てていた。


 高層ビルは黒煙を上げ、道路は瓦礫がれきと化した車両で埋め尽くされている。

 かつて人々で賑わっていたこの都市は、今や死と破壊の匂いが立ち込める、静寂に支配された戦場となっていた。



 その中で、警視庁捜査一課の刑事、大江戸嵐は、怒りと悲しみを胸に機械兵士との激しい戦いを繰り広げていた。


「くそっ、これ以上、好き勝手にはさせないぞ !」


 嵐は破壊されたパトカーの陰から飛び出し、特殊警棒を構えて機械兵士に突進する。


 彼の動きは研ぎ澄まされ、常人の域を遥かに超えていた。

 機械兵士の攻撃を紙一重でかわし、その隙をついて警棒を叩き込む。


 しかし、未来の技術の結晶である機械兵士は、並大抵の攻撃ではびくともしない。

 嵐の攻撃は、彼らの装甲に火花を散らすだけで、決定的なダメージを与えるには至らなかった。


 逆に機械兵士の反撃は容赦ない。

 内蔵された銃器から放たれるエネルギー弾が、嵐の周囲を爆発させる。


 瓦礫が舞い上がり、嵐は爆風に吹き飛ばされそうになった。


「ぐっ……!」


 辛うじて瓦礫にしがみつき、体勢を立て直す嵐。しかし、彼の視界には無数の機械兵士が迫り来る光景が映っていた。


「まずい……! これ以上は……」


 絶体絶命の危機。

 嵐は、このままでは生きて帰れないことを覚悟した。

 その時、彼の脳裏に激しい戦いの記憶が奔馬のように駆け巡った。


 赤く染まった大地。無数の敵兵。

 そして、その中心で、まるで戦神のように敵をぎ払う、屈強な戦士の姿。


「これは……?」


 嵐は、その戦士が自分自身であることに気づいた。

 否、正確には自分の中に眠る、古代ギリシャの軍神アレスの記憶であることを悟った。


 次の瞬間、彼の全身を強烈な光と熱が包み込んだ。


「うおおおおおおおおおお!」


 嵐の叫びと共に、彼の身体能力が飛躍的に向上する。反射速度、筋力、そして耐久力。


 全てが人間の限界を超え、神の領域へと近づいていく。


 彼の瞳は赤く輝き、身体からは炎のようなオーラが立ち上る。


 その姿は、まさに戦神アレスの化身だった。


「面白い……!ようやく、俺の血が騒ぎ始めたぞ!」


 嵐の声は轟き、周囲の空気を震わせる。


 彼は先ほどまでの疲労と絶望が嘘だったかのように、再び機械兵士へと突進していった。


 その動きは、先ほどとは全くの別物だった。

 機械兵士の攻撃を軽々と回避し、その隙をついて的確に攻撃を叩き込む。


 特殊警棒は、もはやただの武器ではない。

 神の力を宿したそれは、機械兵士の装甲を容易に貫き、内部の機械を破壊していく。


 嵐の攻撃を受けた機械兵士は次々と爆発し、黒煙を上げる。

 その光景は、まるで戦場に咲く破壊の花のようだった。


「これが……軍神アレスの力…… !」


 嵐は自身の変化に驚きながらも、その強大な力に酔いしれていた。

 しかし、同時に彼の心の中に、ある葛藤かっとうが芽生え始める。


 それは、破壊衝動はかいしょうどうへの戸惑いだった。


 戦うことへの本能的な喜び。

 敵を打ち倒すことへの快感。


 軍神アレスの力は、嵐の中に眠っていた戦士としての本能を呼び覚ましていた。


 しかし、嵐は刑事だ。


 正義を貫き、悪を憎む。


 それが、彼の生き方だった。


 破壊と殺戮さつりくを繰り返す戦士の力は、彼の正義と相容れないものだった。


「俺は……一体、どうすれば……」


 嵐は内なる葛藤かっとうに苦しみながらも、機械兵士との戦いを続けた。

 嵐の拳は、正義と破壊の間で揺れ動きながらも、決して止まることはなかった。



 その頃、別の場所では、ジャンヌが負傷者の手当てに奔走していた。


「大丈夫ですか?

 もう少しで安全な場所に着きますからね」


 ジャンヌは、恐怖に震える人々を優しく励ましながら安全な場所へと誘導していた。


 その姿は、まるで戦場に咲く、一輪の白い花のようだった。


 しかし、ジャンヌの心の奥底には深い悲しみと怒りが渦巻いていた。


 機械兵士の無慈悲な攻撃によって、多くの人々が傷つき、命を落とした。


 その光景を目の当たりにしたジャンヌは、強い憤りを覚えていた。


「なぜ……? なぜ、こんな酷いことを……?」


 ジャンヌの声は震え、瞳からは涙が溢れていた。


 彼女の心は、人々の苦しみと悲しみに共鳴し、深い痛みを感じていた。


 その時、ジャンヌの脳裏に炎の中で祈りを捧げる少女の姿が蘇った。


 それは、ジャンヌ自身、フランスの救国の聖女、ジャンヌ・ダルクの記憶だった。


「神よ……どうか、この苦しみを終わらせてください……」


 ジャンヌの声は、祈りにも似た、切実な願いだった。

 彼女の心は、聖女としての慈愛に満ち、人々の救済を強く願っていた。


 次の瞬間、彼女の身体から温かい光が放たれ始めた。


 その光は傷ついた人々の体を優しく包み込み、癒していく。

 彼女の存在は、まるで希望の光そのものだった。


「これは……? 私の力…… ?」


 ジャンヌは自身の変化に驚きながらも、その力を人々のために使おうと決意する。

 彼女の慈愛の光は、戦場に散った命を悼み、生き残った人々に希望を与える。


 嵐の破壊の炎と、ジャンヌの慈愛の光。


 二つの力は対照的でありながらも、共に未来への希望を灯そうとしていた。


 しかし、彼ら彼女らがまだ知る由もなかったのは、この戦いが彼ら彼女ら自身の魂を深く揺さぶる、壮大な黙示録の序章に過ぎないということだった。


 そして、彼らの内に眠る神の力が、やがて世界の運命を大きく左右することになるだろうということも……


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