第一章 : 異質な鼓動
第 1話 次元の囁《ささや》き
西暦23XX年。 頭上を見上げれば、どこまでも続く銀色の壁が空を覆い、かつてそこにあったであろう青空の記憶は、風化した記録媒体の中にしか存在しない。
高層ビル群は無限に連なり、まるで巨大な金属の森のようだ。
環境汚染と資源枯渇は極限まで進み、緑は過去の幻影。
地球は高度に進化した人工知能と、それと融合した機械生命体たちの冷たい支配下に置かれていた。
彼らにとって、感情や精神性などという曖昧な概念は、効率と合理性を追求する上で不要なノイズでしかなかった。
しかし、彼らの完璧な論理にも綻びがあった。
永続的なエネルギー源と、新たな生存圏。
その渇望が、彼らを過去へと駆り立てた。
過去の記録に残る「かつて緑
彼らは、時間と次元を超える侵略計画を、誰にも気づかれることなく秘密裏に進めていた。
一方、20XX年の現代日本。春の柔らかな陽光が、大江戸グループの最新鋭研究施設に降り注いでいた。
物理学者・
研究テーマは「次元地震」。
未知のエネルギー現象であり、その異常なエネルギーパターンは、従来の物理学の法則ではまるで説明がつかなかった。
「また、このノイズか……」
巧は、ディスプレイに表示された複雑な波形を
無数のスパイクと、不規則な振動。その奥底に、まるで遠い場所から微かに聞こえる
それはあまりにも微弱で、気のせいだと片付けてしまってもおかしくないほどだった。
しかし、巧の研ぎ澄まされた科学者の直感は、それを単なるノイズとして処理することを拒んでいた。
その頃、世界各地では、奇妙な出来事が静かに進行していた。
アメリカでは、最新鋭の巨大穀物収穫機が、突然制御を失い、プログラムとは全く異なる動きで広大な農地を無残に破壊した。
ヨーロッパの原子力発電所では、原因不明の小規模な電圧異常が発生し、一瞬ではあったものの、冷却システムが危険なレベルまで停止した。
中国を走る高速鉄道の制御システムには、微弱なノイズが断続的に混入し、ダイヤが僅かに乱れる事態が頻発していた。
そして、アフリカの医療現場では、患者の命を繋ぐはずの最新鋭医療機器が、まるで意志を持つかのように突如として機能不全に陥り、手術が中断されるという信じられない事態も発生していた。
これらの出来事は、当初、各地の技術的なトラブルや、稀に起こる事故として処理されていた。
メディアも、一部の奇妙な事例を取り上げる程度で、世界的な規模で何かが起こっているという認識を持つ者はいなかった。
人々は、日々の生活の中で、これらの小さな異変に気づきもしなかったのだ。
しかし、確かに何かが起こり始めていた。
遠い未来からの冷たい手が、静かに現代へと伸び始めていたのだ。
巧はコーヒーの冷めたマグカップを手に取り、深く息を吐いた。
ディスプレイに映る奇妙な波形は、彼の心をざわつかせる。
それは、科学的な探求心というよりも、もっと根源的な、本能的な警戒心に近いものだった。
「一体、これは何なのだろうか……」
その疑問は、やがて、人類を未曽有の危機へと導く、巨大な黙示録の序章となることを、まだ誰も知る由もなかった。
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