第9話
30
さあ、これから忙しくなるぞ、
杏奈ちゃんが安心して登校できるように
環境を整えなければ。
2年A組、ここだな。
1年と違って、なんか迫力あるなー
「おう河野じゃねーか、
おまえ頭カチ割ったんだって?
どうだ、少しは賢くなったか?」
「もうすっかり元気っすよ。
それより、1年ときにこのクラスに古川杏奈ちゃんていたっしょ。」
「えー、ああ姫様か。」
え?
「入院先で知り合ったんだけど、
もうすぐ退院して、復学するから、
そのー」
ガムをクチャクチャ噛んで、ヘラヘラしていた先輩は後ろを向いて、
「おーい、うらら!
喜べ、姫様また登校して来るってよ!」
「ほ、本当っすか?」
そう言ってのっそり現れた男は、
こっ怖ー!
顔面総ピアスの、モヒカンだった。
「こいつ、春野うらら、
姫様に告る前にフラれた可哀想なやつ。
見かけによらず、物凄く緊張する性格だから、一緒について行ってやったのに、
何も言い出せないうちに逃げられた。」
目つきの悪いモヒカンはグイッと顔を近づけてきた。
「ふ、古川さんに“怖い”と言われてしまったので、
み、見てください、プチ整形して二重まぶたにしてみました。
これで少しは怖くなくなったでしょうか?」
いや、直すところ相当間違ってるから。
ハハハ...
俺は引き攣ったように笑うしか無かった。
「なあに、古川また来んの?」
1年にはいないケバい化粧をした姉さんが声をかけてきた。
「あ、あんたら杏奈ちゃ、古川さんの事シカトしてたんだろ。」
「えっ、あれはまあー先公が
『今度来る子は凄く優秀で、
おまえらとは住む世界が違うお姫様だからな、
変なチョッカイ出して足引っ張んなよ。』
つったから、関わんない様にしてたんだよー」
「それ、無視してるって事だろ!」
「ちげー、私は声かけたよ、
『ライン友』になろうって。」
「そしたら冷たい目で、
『何ですかそれ』だって
馬鹿にしてんのかっての!」
うわー、そういうことか
「それ誤解だから、
杏奈ちゃんケータイ買ったばっかで
ライン知らなかっただけだから。」
「はあ? そんな奴いるわけないだろ!」
「いるんだよ、世の中には天然記念物みたいな珍しい子が。」
「テンネンキネンブツ?
ああ、ツチノコみたいなやつか?」
「ちょっと違うけどそんな感じだ。」
へー、
あねさんはまだ納得できないようだった。
「この前ラインアプリ入れて、今友だち募集中だから、今度はよろしく頼むな。」
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緊張したー
でもなんだ、全部誤解じゃないか、
杏奈ちゃん案外思い込みが激しいからな。
杏奈ちゃんのクラスメイトはあの先輩たちなんだ、
今度は上手くやっていけるだろう。
あのモヒカンの男は、また杏奈ちゃんに告白するのかなぁー
安心すると同時に、何かにどうしても手の届かないような寂しさに襲われた。
今日は放課後、島田のじいさんの墓参りにでも行くか。
じいさんの墓は相模湾が一望できる山の斜面にあった。
山頂から降りてくる北風が冷たい。
もうすぐ冬になる。
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