第6話

 課長は電話を切るなり「あれ、さっきの客は?」と訊いてきた。

「お帰りになりました」

 僕は目を落としたまま言った。


「”お帰りになりました”って、なんだよ。あのさ、なんでさ、そのまま帰しちゃうわけ?」


 毎度の詰問だが、僕は答えられない。

 どんな答え方しても、課長ひいては会社には何の理由説明にもならないことが分かっているからだ。

 そう、本当は営業戦術として、来場客が買う気も興味もなくてモデルルームを一目見ただけで帰ろうとしても押しとどめて、必ず、絶対に、何がどうであろうと、再び交渉用の机に着いてもらうこととなっているのだ。


 くどいようだが、どんな理由をつけてでも、たとえ嘘であっても構わないから、何が何でもすんなりと帰らせてはならないと常々言われている。その客がローンの組めない外国籍の人間もしくは同業他社の人間でないかぎり。


 とにかく銀行の融資が通りそうな客を見つけ出して、さっさと売りつけてしまいたい、それが、営業部ひいては、この会社の本音だった。


「いつも言ってるだろ、オレさ、もっと貪欲になんなきゃ、ダメなんだって。そんなんだったら、サタには、もう案内も交渉もやらせないよ」

「すみません」僕はさらに頭を垂れた。

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