第4話

 当社勤続六ヶ月の僕も未だに、自分の会社名を名乗るのに慣れていなくて噛みそうになるときがあるし、それにIT系か機械メーカーをイメージさせる〝テクニカル〟の謎も解けていない。


「佐竹さんね」


 田中さんは、両手を出し軽く頭を下げて丁重に僕の名刺を受け取った。

 そのこなれた仕草を見るにつけ、少なくとも田中さんは普段スーツを着て仕事をしている人だと、僕は思った。ならば、勤続年数にもよるが、金融機関のローン審査に通りやすい上客ということになるだろう。

 が、このマンションを見終えた田中さんの表情は失望によるものか、変に力が抜けていた。


 僕は、マンションのエントランスの外まで田中さんを見送った。

 田中さんは、派手な見出しのスポーツ新聞ののぞくコンビニの袋を少し煩わしそうにしてから白いビニール傘を開くと「それじゃ」とつぶやいたきり、一度も後ろを振り返ることもなく、まっすぐ行った先の二番目の十字路を右へ折れて歩いていった。

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