第4話
当社勤続六ヶ月の僕も未だに、自分の会社名を名乗るのに慣れていなくて噛みそうになるときがあるし、それにIT系か機械メーカーをイメージさせる〝テクニカル〟の謎も解けていない。
「佐竹さんね」
田中さんは、両手を出し軽く頭を下げて丁重に僕の名刺を受け取った。
そのこなれた仕草を見るにつけ、少なくとも田中さんは普段スーツを着て仕事をしている人だと、僕は思った。ならば、勤続年数にもよるが、金融機関のローン審査に通りやすい上客ということになるだろう。
が、このマンションを見終えた田中さんの表情は失望によるものか、変に力が抜けていた。
僕は、マンションのエントランスの外まで田中さんを見送った。
田中さんは、派手な見出しのスポーツ新聞ののぞくコンビニの袋を少し煩わしそうにしてから白いビニール傘を開くと「それじゃ」とつぶやいたきり、一度も後ろを振り返ることもなく、まっすぐ行った先の二番目の十字路を右へ折れて歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます