3-9
たとえ恐怖に震え、泣いていただけで怒鳴られ、吊るされ、傷を増やされて追い返され、注文した料理が辛いというだけで八つ当たりをされようとも、この兄弟たちもまた親は親だと割り切っている。
そんな親子たちと、縁を切る親子たちとの違いとは、いったいなんなのだろう。
「けど、親は子を守るものなんじゃないのか」
当然のようにジーンは言う。当然とはそうあるべきという意味に通じる。ジーンはそれも分かった上で、さも当然のように言うのだ。
「おれたちの親父も、なんだかんだ言って息子をかわいがってくれてるからな」
どら息子呼ばわりしようとも、与識先生は息子全員を思い、今日もまた生きている。
「息子でも娘でも、子は子だろ」
「……ありがとう」
「いや、作り直しをさせられずに済めば、おれはそれでいいんだ」
怠惰な技師の反応に、社長は笑った。
「ありがとう。生き返らせてくれて、お母さんと仲直りさせてくれて」
未散さんも涙に顔を濡らしながら、つがるにそう告げた。
「技師さんも、ありがとう。でももう少し美人にしてくれてもよかったのに」
「あんたの身内の顔の造形を踏まえた上で整形したんだ。文句を言われる筋合いはないぞ」
ジーンはデニムから名刺入れを取り出して、引き抜いた中身を投げつけた。長机に散らばる紙を未散さんが一枚拾う。空いている片手で、母親の背中を何度も何度もたたいた。
「お母さん、お母さん!」
涙で赤く腫らしたまぶたを押し上げ、奥さまは未散さんが見せつけてくる紙に、目を疑っている。口を開閉させながら、またもや夫をにらんだ。
「どうして……」
「……持っているのが知られたら、処分されるかもしれなかったから」
「なんで、わたしにまで黙ってたの」
「……疑心暗鬼だったんだ、ぼくも」
未散さんは二枚の紙を、長机の上ですべらせて、私たちに見せてくれた。
小さな赤ちゃんの写真だった。
「秘書さん、わたしのお姉ちゃんたち」
「もう秘書じゃないんですけどね、私」
それはさておき。
若い奥さまに抱かれている少女たちは、この先の自分に待つ最悪の末路を知る由もなく、親に笑いかけている。自分が生まれてきたからには、あなたたちはもう幸せ者になる未来が待っているのよと、傲慢さすら感じられる、幸福になる義務を与えに生まれてきた、幸せの結晶が写真に残っていた。データではなく、アナログに、紙で。
「親子はこうでありたいね」
つがるが端末に書き込んだ心にもない意見に、ジーンも同意した。
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