第50話「赤の街」

「それじゃあ空の色は精霊がつけてるってこと?」


「ああ。精霊の属性色が循環する魔力に影響を与えああ見えるのだと」


 無数の精霊がオーロラのように色を作っている。それを考えると自然のスケールのでかさに驚かされる。


「そうなんだ。で、メルメアスに能力を使った正体って?」


「向かいながら話そう」


 顔を背け輝夜は足元に広がる草を踏み潰しながら歩いて進み、名無しもついて行った。


「あれは霧が星に拡散した三時間後の事。私は当時他国との戦争で、ある国の魔導隊と交戦状態にあった。神正教という名の宗教にこの角と刀の存在を世界から秘匿してもらう条件でな」


「角と刀を隠す?何で?」


 精霊種エルフ地霊種ドワーフのように身体に人とは違う特徴を持つ種族は少なからずいる。その者たちも二つの大国の影響で、差別的な風潮は消えつつあると名無しは思っていた。


 それに刀を隠すという必要性についてもよくわからず、名無しは輝夜に聞いた。


「私の角と刀は約150年前から代々輝夜家に継承されているものだ」


「150年前!?!?」


 想像などしていない返答に名無しは声を大きくし驚いた。


 それもそのはず、魔力異常現象によって種族が変わったならまだしも魔力もとい魔素が存在しない昔から鬼の角を持っているなどおとぎ話の空想のようで、名無しには到底信じられなかったからだ。


 だが、だとすると隠す意味に納得はいった。

 鬼の角を持った人間など、どう扱われるかわからない。崇めたてられるならまだしも実験体に使われでもすれば身の保証はないだろう。


「この角は代々当主のみが持ち合わせ、刀は角持ちにしか扱えない。私以外がこれに触れるとこのように魔力を吸い取られる」


 輝夜は毒々しい色の斑点をつけた花に刀身を当てる。すると、花からゆらゆらと魔力が現れ刀に全て吸い込まれ花はしおれた。


「初代当主はこれもあってかこの二つを秘匿することを絶対厳守にした。それ以外には何故人とは違う角を持って生まれてくるかなど、詳しくは私も知り得ていない。母から教わる前に魂喰霊が現れてしまった」

 

「それって……いやなんでもない」


 魂喰霊が現れた時、輝夜は他国にいたと言っていた。

 家族と離れ離れになっていたのだとすると身内がどうなっていたかなど想像は容易い。溢れ出した魂喰霊に対抗し続けるなんて不可能なのだから。


 名無しはそれ以上は聞かなかった。

 聞いたところで嫌な過去を思い出させるだけならしない方がいい。


「話を戻そう。霧によって人々が一、二時間で気絶、死亡し。その幾分先の終焉災害の事だったな」


「うん」


「カイと言う者。"機械人"をマスターに持つ君なら当時の映像記録は持っているだろう」


「肯定。所持しているが当機が公開するメリットはない」


 メリットと言うということはカイのマスターから公開の許可は降りているのだろう。だとすると、島名が警戒している通り、やはり全てをさらけ出すつもりはないらしい。


 だが、許可されている以上は付け入る隙は十分にある。


 それを輝夜も思っていたのかカイにある提案を投げかけた。


「そうか。映像記録の公開をすれば名無しが仲良くするらしいが、どうする?」


「え!?いや、一言もそんな事言ってないんだけど?」


 予想もしていない輝夜の言葉に名無しは驚き、少し早口気味に反対意見を主張した。


「承諾。終焉災害に関する過去記録の提示を行います」


「いや、まだいいとは言ってないけど!?ていうか、輝夜は何処でそれを知ったの?」


「通路を歩いていた時に偶然聞こえた」


(あの時、近くにいたのか……。う〜ん、まぁ仲良くするぐらいなら)


「まぁ、いいや。分かった」


 カイと仲良くするのはそれほど重い約束ではないと名無しは後ろを振り向きカイに手を差し出す。それに対しカイも名無しの手を掴み、硬い握手を交わした。


「契約成立。映像記録の投影は精霊操作による魔力の認識をもって行う。よって、この場での映像公開は魂喰霊に探知される危険性があると当機は推測する」


「そうか。では、赤の街についた後に頼もう」


「赤の街」


 名無しは"赤の街"がどういうものであるのか再度疑問を口にする。


 それに対し、輝夜は見れば分かると言った。ならばいいかと、名無しは何も聞かずついて行く。


 赤の街は草原を抜けた先にある廃墟都市らしい。

 大体の街が人がいないから廃墟都市ではあるのだが、外観が想像していた通りの廃墟都市だと勇人は言った。


 果たしてどんな街なのか。

 赤というのだから赤要素はあるのか。

 昨日のように異常現象が起こっている街なのか。

 

 名無しは怖さ半分興味半分で先へと進み、そしてたどり着いた。


「うわ〜。確かにこれは赤の街かも」


 街に入る少し前、草原の緑色が赤色へと変わってはいた。


 それはここも同じ。

 眼前に広がる見渡す限りの彼岸花の群生。それが地面を埋め尽くすほどに咲き誇っていた。おそらくは魔力による植生変化の類いだろう。


 だが、まさか廃墟と化したビル群を覆い尽くすほどに彼岸花が咲き誇り、街全体が赤に包まれているなど名無しは予想していなかった。


「やっぱ、すごいなぁいつ見ても」


 勇人は上を見上げ感嘆の言葉を口にする。


「いや、すごいなんて言葉じゃ表せないでしょ、これは」


 昨日といい今日といい一度外に出れば、こんなにも美しくそれでいて恐怖を肌で感じる世界があるのかと、名無しは予想もしない連続にフィクションの中にいるようだと感じた。


 一行はそのまま地面に咲く花を踏みながら進んでいく。


「通称赤の街。街全体が彼岸花に覆われた廃墟都市群。中心にある一輪の魔力異常個体により、無数の彼岸花に魔力が供給され、ある一定の範囲内で飛躍的な増殖を魔力異常現象時に観測。神正教が定める禁足地指定地域に該当」


「で、これがその中心のやつ?」


 目の前にそびえ立つ人の数十倍はある巨木の如き高さと太さを誇る、見た目は普通の彼岸花を名無しは指差しカイに聞いた。


「肯定。茎の内部にあるコアにより辺りの彼岸花に魔力供給が行われている」

 

 全体の中心、茎の中にまるで大きな一つの球が入っているかのように太く膨らみ光っている部位が見える。


 そして、目を凝らさずともそれが魔力を帯びているのは一目瞭然だと名無しでも分かった。


 おそらく、この魔力が地面に張った根を伝って花々に魔力が供給されているのだろう。


「しかし、こうゆうを見ると無性に刀をコアに当てたくなる」


「でも、それしたら……」


「刀に魔力が補充されるのみ」


「加えて、彼岸花の枯死と魔力体コアの消失を当機は推測。コアは魔力発電の動力源枯渇時の動力源に使用するのが最適」


「ああ、分かっている。それでここならいいか?」


「周辺に魂喰霊の存在は確認できず。要求遂行可能。よって、当時2025年8月13日に起きた"終焉災害"加え、当時世界を守り抜いた”残焔ざんえん七英傑しちえいけつ”についての映像記録を提示開始」

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終末世界で明日を見る がみれ @gamire

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