日向坂46の楽曲考察

【考察】Cage

　歌詞

　https://www.uta-net.com/song/270562/

「Cage」は、ミニマルで緊張感のあるサウンドに乗せて、語るように始まる。イントロから伝わる閉塞感、抑えたビート、どこか冷たさすら感じさせるメロディが、楽曲全体のコンセプトを物語っている。

　曲調は明るくない。むしろ、静かで、内向的で、光を避けているような印象すらある。そこに込められているのは、「アイドル」としての輝きとは対照的な、自我の葛藤や不自由さ、心の叫びである。

　タイトルの「Cage（檻）」は、直喩としても隠喩としても機能する。ここで描かれる檻は、物理的なものではなく、精神的な「見られる存在」としての不自由、つまり“透明な監視”の象徴である。

　歌詞では、誰かの期待、社会の役割、見られることに対する緊張と苦しさが繊細に綴られている。自分の存在が他者の視線によって規定され、「ありのまま」でいられないことへの苛立ちや孤独。アイドルであること、もしくは“期待される存在”であることの代償が描かれている。

　この曲が語る「閉じ込められている意識」は、現代に生きる多くの人が共感できるテーマでもある。見られること、期待されること、自分でいられないこと。そうした苦しみを、静かで美しい形で提示しているといえる。

【哲学的考察】

　1. 自己と他者の視線

「Cage」で描かれる最大のテーマの一つは、「他者の視線による自己の拘束」である。これは、ジャン＝ポール・サルトルの有名な概念「他者の視線」に重なる。他者に見られているという意識は、自分が“対象”として規定されることを意味し、自律的な存在としての「私」を揺るがす。

「誰かが見てる気がして ここから出られない」

　という歌詞は、自己が常に外からの評価の下に置かれているという実存的不安を象徴している。つまり、見られることで存在を得ると同時に、自由を失うという逆説がある。

【倫理学的考察】

　2. 自由と役割の葛藤

「Cage」における檻は、単に外部の抑圧ではなく、自分自身が“こうあらねばならない”と内面化した規範でもある。この内面化された道徳規範は、ミシェル・フーコーの「規律社会」論にも近い。自らを監視し、行動を制御する主体が育まれていく。

　倫理的に考えると、「正しいこと」と「自分らしくあること」は必ずしも一致しない。アイドルという立場上、期待される“理想の人格”を演じることが道徳的に望まれる一方、それが本来の自己の自由を縛ってしまうジレンマがある。

【心理学的考察】

　3. 自己同一性と抑圧

「Cage」は、心理学的には“アイデンティティの揺らぎ”と“感情の抑圧”を描いた曲といえる。

「本当の自分は違うのに　みんなが思ってるイメージで 生きてるのがつらい」

　といった内容は、エリクソンの「アイデンティティの確立」の問題に関係する。とくに青年期や社会的役割が変化する時期に、自分の内なる本音と外の期待に食い違いが生じると、心理的な葛藤が強まる。

　また、抑圧された感情は、やがてうつ的傾向や自己肯定感の低下を招く。この曲には「逃げたい」「声を上げたい」という言葉は出てこないが、それゆえに静かな苦しみがよりリアルに感じられる。

【総合的解釈】

「Cage」は、外から閉じ込められるのではなく、“見られる存在”として生きる中で、自ら檻を築いてしまった人間の心象風景を描いている。自由であるべき存在が、社会的役割・期待・視線・イメージといった「他者のまなざし」によって、自らを縛ってしまうという構造がある。

　それは、アイドルという特殊な立場に限らず、現代社会における「見られる自己」「評価される自己」を生きる私たちにとって、普遍的な問題でもある。