第21話 麻梨亜
トゥル ガチャっ!
「出るの早っ!」
「私は広小路定宗などという落武者など知らぬ! ガチャ! ツーツーツーツー」
「まだ何も言ってないしっ!」
麗菜は一体どこから情報を手に入れるのだろうか……。そんなことよりも……。
「出ていけよ。ここは俺たちの部屋なんだ」
定宗にこの部屋から出て行くように言った。
「断る! 若い男女が同じ部屋で生活するのは教育上よろしくない。拙者が出て行けば、お前は必ず彼女に対して卑猥な事をするはず。拙者は武士としてそれを見逃すワケには行かぬわ!」
「だ~か~ら~。幽霊相手にどうやって卑猥な事をするんだよ」
「触れずとも卑猥な事はできるであろう。例えばこんな事とか……」
定宗がレイの前で局部を晒す。
「きゃああああああああああっ!」
レイが悲鳴を上げ、俺がハリセンで定宗の頭を叩く。が、ハリセンが定宗の身体をすり抜ける。
「ふはははっ! 無駄、無駄、無駄、無駄あああああっ! だって、幽霊だもの」
「ぶ、武士として恥ずかしくないのかあああ」
「はっ、そうだ。拙者は武士であった……」
定宗が短冊に辞世の句をしたためる。
『ごめんなさい あいつに釣られて また出しちゃった』
「では……」
そう言うと、定宗は月明かりでキラリと光る短刀を自分の方に向けると、それを一気に自分の腹へと突き刺した。
「うっ……うううううううううっ!」
唸り声を上げ、うずくまりながらお腹を押さえる定宗。
定宗は短刀を突き刺したあたりに手をやったあと、自分の手のひらを見てワナワナと震えだした。
きっとまた同じ事を繰り返すと思ったので放って置いた。案の定、同じ台詞を繰り返している。呆れた俺は、ふと窓の外に視線を移した。すると、女子寮から出て行く加納麻梨亜の姿を見つけた。
「麻梨亜さん、こんな時間にどこに行くんですかね?」
いつの間にかそばに来ていたレイが呟くように言った。 女子寮を離れるにつれ、麻梨亜の姿が見えにくくなる。そしてついには、麻梨亜は闇の中へと姿を消していったのだった。
(ね、眠れない……)
午後十時三十分を過ぎると、女子寮内の明かりが消された。編入初日。色々な事があって身体はとても疲れている。さっさとベッドに入って身体を休めようと思ったのだが、とても休めるような状況ではなかった。
レイは布団の上で仰向けになりながら、手を胸の上で組んで寝ている。ぴくりとも動かず眠っている姿は、天に召される姿そのものだった。
それに引き替え、定宗は寝相が悪い。俺の上をプカプカと浮きながら、乱れた髪を俺の顔の上に垂らしている。口を開けながらいびきをかく姿は、年頃の娘から『うざっ』と言われるオヤジの姿そのものだった。開けた口から今にもヨダレが垂れそうで、おちおち寝ていられない。俺は布団から出ると、窓際に置いてあった丸いイスに座り、月を見ていた。
そばには女体スーツ『北極三号』が吊ってある。もうレイには素性がバレているので、眠るときにはスーツを脱ぐことにしたのだ。
(今日は満月だな……)
夜空に浮かぶまん丸な月を見ていた時だった。女子寮を取り囲むように植えられたバラの生け垣のあたりで、何か黒い影が動いたような気がした。俺は身体の位置をずらし、目を凝らしながら影が動いたあたりを見ていた。
(あっ……麻梨亜だ……)
そこにいたのは、先ほど女子寮から抜け出した麻梨亜の姿だった。
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