第12話 ピンチ!
「うん。新しい生徒が入ってくるって聞いたときには、どこの部屋を使うんだろうって思ってたの。だって空いてる部屋なんてなかったし。でもまさかあの部屋を使うなんてね~」
真緒がフォークで突き刺したサラダのキュウリを口の中へと放り込んだ。ポリポリと小気味よい音がする。
「えっ? でも、私、一人じゃないよ。ちゃんとレイちゃんが……」
「レイちゃん? そんな子いたっけ?」
「いたよ。黒くて長い髪のすごく可愛い女の子」
そう言いながら、俺は食堂を見渡した。真緒に彼女のことを教えようとしたのだ。だが、食堂を見渡しても、どこにもレイの姿はなかった。
「千尋ったら面白~い。でもそれが本当なら逆に怖いけど。さて、宿題終わらせなきゃ。レイちゃんのお話、また聞かせてね」
夕食を全て食べ終わった真緒が、トレーを持って席を立った。
「あ、ちょっと! まだ聞きたいことが……」
俺が言うと、真緒は手を振りながら食堂から出ていった。
「ねえ、麻梨亜は知って……」
横にいる麻梨亜に聞こうと思ったが、そこにはすでに彼女の姿がなかった。食堂を見渡すと、麻梨亜も食器を片づけている。
「ちょ、ちょっと麻梨亜! 聞きたいことがあるんだけど」
麻梨亜に向かって言うと、
「ごめんなさい……私も宿題をしなきゃいけないから……」
俺と視線を合わせず、うつむいたまま麻梨亜が言った。麻梨亜は小さくお辞儀をすると、慌てて食堂を出ていった。
他の生徒たちも俺と目を合わせようとしない。急ぐように夕食を済ませると、みんな食堂から出ていってしまった。
(な、何なんだ……)
食堂に一人取り残された俺は、残っていたビーフストロガノフを掻き込むように食べると、食器を片づけ、自分の部屋に戻った。
204号室……
「やっぱりいるじゃない……」
「何がですか?」
部屋に戻るとそこにはちゃんとレイの姿があった。レイは俺の言葉に不思議そうな顔した。
「ううん、何でもないの。気にしないで」
「……そうですか……」
「それより、夕食の時に姿を見かけなかったけど、体調でも悪いの?」
透き通るような白い肌をしているレイ。顔の色も本当に透き通るような白い色をしているのだ。かといって、体調を崩したときのような青ざめた色ではない。
「……はい。ちょっとお腹が痛くて」
(そうなのか……まあ、女の子だからね)
お腹といえば、何だか下腹部がもぞもぞしてくることに気づいた。夕食の時、水を飲み過ぎたのかもしれない。俺は部屋に備え付けてあるトイレに駆け込むと、鍵を閉めて便座に座った。そして座ったところであるとても重要な事柄に気づいたのだ。
(これって……やっぱり脱がなきゃいけないよな?)
視線を股間へと下ろす。ついているべきものがついていない現実を直視する。このままジャーすれば、やはり北極三号の中は……。いや、ジャーならまだましだが、ぷりっとなると……。
悲惨な状況が頭に浮かぶ。俺は慌ててリアル女体スーツ『北極三号』に手を掛けた。掛けたはいいのだが……。
(ん? これ、どうやって脱ぐんだ?)
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