第25話:勇者誕生Ⅳ
いやいやいやいや、なんでそうなる⁉
勇者の導師? 俺が⁉ どこをどう考えたらその人選になるんだよ⁉
おい、誰だよ俺を推薦したやつ! 表に出ろ! 話し合いという名の素手の殴り合いをしようじゃねぇか!
負ける気はしないけどな!
……よし、ここは良い感じに断れば!
「し、しかし、陛下……! 俺には荷が重すぎます。勇者の導師なんて、もっとこう、師団長とか、白髪ふさふさでヒゲもじゃの知識人が――」
「お主以上に適任な者はおらん」
食い気味に断言すんなよ!
「そ、それに! 私は軍人ですし、訓練や実戦ならともかく、人生の指針を示すような高尚な役目には……」
「軍人だからこそ良いのだ。実践に勝る学びはない。そして貴殿のような者ならば、勇者の力を引き出せるだろう」
ダメだ、この王様、もう決めてやがる……。目が本気のそれだ。
いや、あれだろ? 「導師」って言いつつ、実際は名ばかりで形式的な――
「アルクス大尉、これは王命である。リリアは、今日からアルクス大尉の監督下に入り、第三師団の預かりとする。準備が整い次第、共に戻るといい」
形式的ですらなかったあぁぁぁああ⁉
これ、ガチだよ! 勇者ガチで預けられたよ俺⁉
師団長のほうをチラ見すると、なんか「面白くなってきた」とでも言いたげな顔してニヤッとしている。
くそっ……絶対グルだ、あいつら全員グルだ……! 俺の困る姿を見て楽しんでいるんだ! 絶対そうだ!
「王命とあらば、その任、全うして見せましょう」
最終的に、俺は半ば強制的にその場で了承させられた。
――こうして、俺は勇者育成コースに突入する羽目になったのである。
◇ ◇ ◇
王城を出て、馬車に乗り込む。
隣には当然のように主人公、もとい勇者リリアが座っていた。
対して俺はというと、隅っこで体育座り。精神的ダメージがでかすぎてもう言葉も出ない。
「……あの、アルクス大尉、殿?」
不意に声をかけられる。
リリア。金髪碧眼、清楚な美少女。たぶん、顔面偏差値で言えば軍内トップクラス。
でも俺の脳内では「イベントトリガー爆弾」って表示されてるから、むしろ警戒対象です。
ガチで。
「アルクスでいい」
「わかりました。では、アルクスさん」
「……はい、なんでしょう、爆弾さん」
「あの、いま何て……?」
「いえ、勇者様とお呼びしました」
あっぶねぇ……うっかり本音出かけた。危うく初日で打首コースに突入するところだった。
リリアは小首を傾げて、俺の顔をじっと見つめる。
「さっきから、ずっと難しい顔してますよね。やっぱり……私じゃ頼りないとか、そういうこと、でしょうか」
――違うんだ、そうじゃないんだ。
お前がどうとかじゃない。問題は、お前が
頼りないどころか、この時点で覚醒した勇者って、物理的にもヤバい強さなんだよ。
このまま一緒に旅でも始めようもんなら、バッドエンド一直線なんだよ俺が!
「いえ。決して、そういうわけではありません」
とりあえず笑顔でごまかす。営業スマイル全開。
師団長が「ふふっ、これは面白い」と呟き、この状況を楽しんでいた。
「じゃあ、どうして……? その、嫌そうな顔、しているので……」
あーもう、こいつ、素直か! 瞳がまっすぐすぎて眩しいわ!
仕方なく、少しだけ本音を交える。
「……いや、こう見えて俺、けっこう小心者でしてね。期待されるの、苦手なんですよ」
リリアは目を瞬かせたあと、ふっと笑った。
「……じゃあ、おあいこですね。私も、勇者なんて期待されて、正直怖いです」
その言葉に、俺は思わずリリアを見た。
――ああ、そうか。
こいつも、ただの普通の人間だったんだ。
それに、俺はゲームをプレイしていたからこそ知っている。
どうして、戦うのかを。強くなりたいのかを。
彼女は聖剣に選ばれて、突然勇者なんて称号を押し付けられて。
それでも前を向こうとしている。
……ダメだな。こんなん、俺がラスボスであっても、放っておけるわけがない。
「なら、少しずつ慣れていきましょうか。まずは第三師団の洗礼から受けてもらいますけどね」
「せ、洗礼……?」
「アルクス大尉。それは心外だね」
見過ごせなかったのか、師団長が会話に割り込んできた。
その表情はむすっと不満げだ。
「俺、何度も訓練メニューの見直しを進言してますけど?」
「みんな訓練について来れている」
「死ぬ気で、が付きますけどね」
「お前はいつも平気な顔をしている。私が直接しごいた方がいいかな?」
「勘弁してくださいよ。そんなことされたら、俺、師団長の顔を見れなくなりますよ?」
「私が美しいのは元からだ」
さらっと爆弾発言キタコレ。
いや、そういう自信満々なとこ嫌いじゃないけども!
普通、そんなセリフ言う時は冗談っぽくとか照れ笑いとか入れるもんだろ⁉
なんだよその真顔! 王城の大理石よりも真顔じゃねぇか!
「……師団長、ほんと、自信家ですね」
「事実を述べただけだ。謙虚になる必要はないだろう?」
「いや、謙虚さは人として大事な美徳ですよ……」
っていうか、なに? この会話、俺と師団長の漫才枠で確定なの?
勇者の導師ってポジション、もっと神聖で厳かなやつじゃなかった?
もうこれ、俺の胃にダイレクトアタック入ってるんだけど⁉
「ふふ……なんだか、楽しそうですね」
横でリリアが微笑む。無垢なその笑顔がまた怖い。
そう、こういう「癒し系」ってやつが一番怖いんだよ……!
うっかり油断して懐いてきた子犬だと思っていたら、実は魔獣でした的なやつだよこれ!
「あの、アルクスさん……私、頑張ります。ですから、これからよろしくお願いしますね」
ああもう、なんだその真正面からの好意的アプローチ!
やめてくれ! ラスボスのHPが削られてくぅうう!
「……こちらこそ、よろしくお願いします、勇者様」
「リリアでいいですよ」
「そうか、リリア」
「はい!」
俺は内心で涙を流しつつ、営業スマイルの深度を10%上げた。
この顔の筋肉、たぶん明日あたり筋肉痛になるわ。
翌朝。第三師団の訓練場にて。
「全員集まれ。新入り連れてきた」
師団長の号令一発。訓練場に集まる隊員たち。
俺の背後にはリリア。なんだこの新米教師と転校生みたいな構図。
「今日からこいつが、我ら第三師団の預かりになった勇者様だ」
うわあああ、紹介キター!
しかも雑ぅううう! 勇者様って紹介にしてはカジュアルすぎるぅう!
「リリアです。よろしくお願いします!」
リリアがぺこりとお辞儀。
でも、隊員たちの反応は――
「ちっさ……」
「ほんとにこの子が勇者?」
「いや、俺の姪っ子の方が筋肉あるぞ……」
待てコラ貴様らァァァアアア!!!
本人の前で言うな! せめて背後でこっそり言えよ!
あと姪っ子どんなムキムキだよ、やべぇだろそれ!
リリアは一瞬だけぴくっと眉を顰めたが、すぐに微笑みに戻した。
「……大丈夫です。私、強くなりますから」
あ、これあかんやつや。
このパターン、絶対根性で乗り越えてガチで強くなるやつ。
そうしたらその先に待ってるのは――俺のバッドエンドじゃねーか!
……マジで誰だよ、俺を推薦したやつ……。
とりあえず、名簿の裏から調べて、王侯貴族、軍部の集まる飲み会で酔わせて聞き出してやる。
見つけたら闇討ちしてやる!
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