元不良の俺が異世界で最強になるまでの話

@sigil_dz6

第1章:終焉の始まり

俺の名前はカイドウ・ウゼン。

誰もが簡単な人生を送っているわけじゃないし、俺の人生も決してバラ色なんかじゃなかった。

父親は俺が生まれる前に姿を消し、母を捨てた。俺には、彼女しかいなかった。


母さんはいつも優しくて明るくて、この世界で俺が愛した唯一の存在だった。

どんな困難にも笑顔を絶やさず、俺を支えてくれた。


ある日、母さんは職場でボーナスをもらった。

そのお金で生活を楽にすることもできたはずなのに、彼女は俺の幸せを優先して、遊園地に連れて行ってくれた。

当時、俺は8歳。信号無視しちゃいけないくらいの常識は持っていた。でも――


帰り道、母さんが買ってくれたボールを落として、それが道路へ転がっていった。

俺は反射的に追いかけた。

そのとき――車が猛スピードで突っ込んできた。母さんは迷わず俺をかばい、事故に遭った。


幸い、命は助かったが、怪我は重く、それから母さんは昏睡状態に陥った。

意識が戻らない母をもう世話できないということで、俺の後見人は近い親戚に任された。

周囲は「良い人だ」と思っていたようだが――

そいつは酒浸りで、短気な男だった。数週間で本性を現し、毎晩俺を殴っては気絶させた。


誰にも助けを求められなかった。誰も知らなかった。ただ耐えた。黙って、何もかも受け入れた。


七年後――

暴力に飲まれた俺は、肉体的にも精神的にも変わっていた。

虐待によって鍛えられた体は、知らぬ間に強靭になり、短気で怒りっぽい性格になっていた。多分、それも叔父のせいだ。


そんな中、初めての喧嘩をした。

相手は、母さんのことを馬鹿にしたクラスメイトだった。

俺はそいつを殴りまくり、顔が誰かわからなくなるほどにしてやった。


その事件は一週間以内に校内中に広まり、周辺の学校にまで噂が飛び火した。


そして、ある日、クソみたいなチンピラ集団が俺に喧嘩を売ってきた。リーダーは年上で、俺に喧嘩を仕掛けた。

望み通りにしてやった。全員を叩きのめし、リーダーの顔は穴という穴から血が出るほどぶっ潰してやった。


それから周辺の不良たちは俺に従うようになった。

俺は「不良」と呼ばれる存在になり――

毎日、病院に母の元を訪れていたが、

あの日ばかりは、あの人の顔を直視する資格なんてないと思ってしまった。


それから二年後、十七歳の誕生日。

病院から電話がかかってきた。

母の命を支えていた機械を外すという通知だった。事故から九年経っても意識が戻らず、これ以上は無意味だと判断されたらしい。


その日、俺は母の死に立ち会った。

最期の言葉も交わせず、涙も出ず、ただ胸を締め付けるような罪悪感だけが残った。


病院の書類にサインし、遺灰を受け取って夕方に帰宅すると、あの男がいた。

酒をがぶ飲みしながら、俺を見てニヤリと笑い、こう言った。


「やっとあのアバズレが金を吸い取らなくなるってわけだな、寝てるだけでよぉ」


その言葉で俺の血が沸騰した。

男はゆっくり立ち上がり、憎たらしい笑みを浮かべながら近づいてきた。

俺の目の前で腕を上げ、拳を握りしめる。


「てめぇもそろそろ俺の金を吸うのをやめろよ、このクソ虫が!」


振り下ろされたその拳を、俺は無意識に掴んでいた。

そして全力で捻ると、ゴキッという音と共に骨が折れた。

男は情けない悲鳴を上げた。


「うるせぇ……」


それがその時の俺の唯一の感情だった。

そして、俺は右腕を振りかぶって、胸に拳を叩き込んだ。

男は地面に倒れ、苦しそうに喘いでいた。多分、何本か肋骨が折れた。


それでも俺は思った。


「可哀想な男だな。報いを受けただけだ。楽にしてやるよ」


そう呟きながら、顎に蹴りを入れた。男は即座に意識を失った。


俺は家を出て、もう二度と戻らないと決めた。

でも不思議と、行き先は決まっていた。母のお気に入りの、あの小さな海岸へ。


そこで、俺は母の遺灰を少しずつ海に流しながら、ようやくちゃんと別れを告げたんだ。


それから一週間が経った。

なぜか俺は「ドンケンキ」と呼ばれるようになり、多くの仲間が離れていった。

今日が決着の日――

裏切った仲間の一人がライバルチームと手を組んだと聞き、俺は一日中探し回った。そして、ついに見つけた。


俺の姿を見るなり、奴は顔色を失って逃げ出した。


ウゼン「チッ、こういうのが一番嫌いなんだよ」


俺はすぐに追いかけた。

道は複雑で障害物も多かったが、パルクールで鍛えてきた俺にとっては問題じゃない。


ウゼン「待てよ、ムギノ!!」


怒りを込めた叫びが口から漏れる。

奴の名前は夏川ムギノ、16歳。かつての仲間の中で一番小柄で足が速かった――

だが「ドンケンキ」の名が広まって以降、奴や他の何人かは俺から離れていった。

「狂った奴にはついていけない」と言ってな。


別にそれは構わなかった。

自分の信じる道を選ぶのは自由だ。

だが――

奴が抜けてから、ライバルチームとの抗争では俺たちが負け続けている。

それが全部ムギノのせいだという噂もある。


だから、俺は奴を捕まえる必要があった。


逃げる姿を見て、俺はますます確信した。

アイツは――裏切り者だ。


角を曲がったとき、ムギノの表情が一瞬笑ったように見えた。

その顔は、あの忌まわしい叔父と同じだった。

それだけで、俺の怒りは頂点に達した。


知らず知らずのうちに、足がさらに加速していた。


しばらくして、人通りのないエリアに入る。

ムギノは廃倉庫へと入っていった。

夕日が差し込む中、あたりは赤く染まっている。


ウゼン「……なんで袋小路なんかに入るんだ?」


息を整えて倉庫に入る。

胸に広がる嫌な感覚――

あの事故の日と同じだ。


中は暗く、壁や天井の穴から赤い光が差し込む。

ゴミや箱、樽、シートが散乱していた。

その中央にムギノが立っている。


ウゼン「よぉ、ムギノ。ちょっと聞きたいことがあるんだが……

その前に聞くぞ、なんでこんな場所まで逃げてきた? まさか俺を誘い込んだのか――」


途中で言葉が詰まった。

状況に気づいた俺は、即座に振り向いた。


だが――


バタン!


扉が閉まり、その前に鉄パイプを持った三人の男が立っていた。

不気味な笑みを浮かべながら。


ウゼン「……そういうことかよ、ムギノ」


ムギノ「そうさ、これでお前の暴力も支配も終わりだ、ドンケンキ!!」


ウゼン「暴力を止めるために、さらに残酷な暴力を使うのか……皮肉なもんだな、裏切り者くん。

それに……よそよそしいな。俺たちは……仲間だったはずだろ?」


俺は険しい表情を浮かべ、構える。

ムギノは一瞬怯えたが、すぐに気を取り直し、叫んだ。


ムギノ「今だ、出てこい! 獅子はもう檻の中だ、逃げ場はない!!」


そして――

倉庫の影やシートの下から、二十五人以上の男たちが現れた。

全員が武器を持っている。


「……逃げ場はない。なら……全員倒すしかない!!」


構えを解いて両腕を広げ、腰に回す。

ジャケットの下から武器を取り出す。


「こんなもの、俺の流儀には反する。だが、生き残るためには背に腹は変えられねぇ……!」


俺は叫んだ。


ウゼン「死にたい奴からかかってこいッ!!」


左手には軽量のコンバットナイフ、右手にはスパイク付きのメリケンサック。

かつて腕っぷしだけが取り柄の男がくれた「保険」だった。

本当は、絶対に使いたくなかった。だが、今は――


ウゼン「グラァァァアアアアア!!」


俺は叫びながら突っ込んだ――


その夜、俺は――

越えてはならない一線を越えた。


武器を使い、三人を殺した。


そして――

捕まり、倉庫の地下に監禁された。


翌日、ライバルチームのリーダーが現れた。

あの野郎、戦いの最中は一度も姿を見せなかったくせに。


しゃがみ込み、耳元で囁く。


「もう全部俺のもんだ。お前は負けた、ドンケンキ。

これからは俺がこの街の王だ」


そう言って、俺の顔を蹴った。


それからの三日間――

毎日、違う奴らがやってきては、俺を殴り、蹴り、鉄パイプや鎖で痛めつけた。

水も食い物も与えられず、ただ苦痛だけが続いた。


そして三日目の終わり、

アイツがまたやってきた。

引きずるように鉄パイプを持って。


「最後に言い残すことがあるかと思ったが……その様子じゃ、もう喋るのも無理か。

かわいそうになぁ。

だが、安心しろ――

これで楽にしてやるよ。

三人も殺したんだからな、それなりの代償は必要だ。

あ、そうだ。地獄で思い出せるように教えてやるよ。

てめぇを殺したのは――タツヤ・リンドウ様だ!!」


鉄パイプが振り上げられる。

もし喰らえば、終わりだ。


時間がスローモーションになる中、

俺はなぜか恐怖も後悔もなかった。


視線を横に向けると、ムギノが複雑な表情で俺を見ていた。

……後悔してるのか。

だが遅い。

お前のせいで、俺より酷い奴が頂点に立ったんだ。

自業自得だ。


最後に頭に浮かんだのは――


「ごめんよ、母さん。

俺のせいで、あなたは死んだ。

ごめん、殺し屋になってしまった。

ごめん、あなたのために生きられなかった。

十年後、俺も……死ぬんだな――」


その瞬間、

鉄パイプが頭に命中した。


意識が途切れ、

俺は――闇の中へと落ちていった。


……


「……ここは……どこだ? 何してたんだっけ……?」


身体がふわふわと漂う感覚。

目も動かせず、体も動かせない。


「……クソ、何が起きてるんだよ!?」


――あぁ、なんと哀れな。


「……誰だ!? 誰が喋ってる……!? 俺の頭の中に……!」


――忘れたのか?

死というのは特別な瞬間なのに、それを忘れるとは。


「……いや、覚えてる! てめぇは誰だ!? 俺は……生きてるのか!?」


――生きていない。

潰れた頭で生きてる人間など、いるわけがない。


「ってことは、死んだのか……じゃあここは地獄か?」


――いや、ここは“世界の狭間”だ。

私はしばらくお前を観察していた。

実に面白い人生だったぞ。


「……はぁ!? 覗いてたって……てめぇ、変態か!? 出てこいよこの野郎!!」


――ハハハ、やはり面白い。

こんな魂、久しぶりに見た。

消してしまうにはあまりに惜しい。

輪廻に還すより、価値がある。


「……ふざけんなよ……お前、一体何者だ!?」


その瞬間、俺の身体は急激に落下する。


全身に不快なざわめきが走る。

まるで無数の手が這い回るような感覚。

吐き気すら覚える。


「うぉえ……やめろ、やめてくれぇええ!!」


急落の末、衝撃もなくピタリと着地した。

気がつけば、俺は立っていた。


「ここは……どこだ?」


周囲はグロテスクで不気味、だが荘厳で神々しさもあった。


――呼んだな。現れてやったぞ。

それと、お前はさっき『誰だ』と聞いたな?


背後から声がする。

振り向くと、奇妙な岩に腰かける男がいた。


髪は三色に染まり、装束はインカの神を思わせるようなデザイン。


――我こそは神。

最強にして最高にして唯一なる存在、

邪神カルマディオスだ!!

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