第26話
(強くなりたいか……理由は違うが強くなりたいのは、俺も一緒だ……少し手助けしてみるか…適正があればいずれ強くなるはずだ……)
「すぐ強くなるのは無理だが……もしこの箱のどれかを起動できたなら、いずれ他の魔法使いより強くなることができるぞ」
マジックポーチより4つの魔道具を取り出す。
「それって魔道具?」
「そうだ」
「魔道具も持ってるんだ!すげー」
「魔力は使ったことあるか?」
「ないよ!」
(そこからか……魔力の出し方なんて教え得たことないからなー…なんて説明するか…)
「えーと…体の中心から熱を取り出して、右手に集める感じだ」
「熱?」
「そう…あったかいやつだ」
「あったかいやつ…」
実際魔力に熱エネルギーはなく、ただ感覚的にそう感じるだけだ。
「そしたら、それをこの箱に流す。コツは、箱を自分の体の一部だと思い込むことだ」
「体のいちぶー?」
「箱を握りこんで、拳全体を一つと見立てるんだ」
「できなよー」
「じゃあ、強くなるのは無理だな…」
「…やだ……がんばる……」
「うん…がんばれ……、1分置きに箱の種類を変えてみるか……適正属性の魔道具は流しやすいかもしれない」
子どもは集中力がない、飽きさせない工夫が必要だ。
「適正属性?」
「君が使いやすい属性のことだよ」
「なるほど……じゃあ、ししょーの適正属性は風!?」
「そうだけど……師匠?」
「うん!ししょー」
「師匠はやめてくれ…俺の名前はユザナだ」
「えー、じゃあユザナ先生!僕はアイク!」
「先生って言われても……悪いなアイク、俺は明日この村を出るんだ。教えることは今日しかできない」
「あした……そんな……せっかく強くなれると思ったのに……」
アイクの顔が一気に曇る。そこで俺は、アイクに手助けをすると決めたとき、渡そうと考えていたプレゼントを提示する。
「……しょーがない……この3つの魔道具のどれかを起動することができたなら、その魔道具をあげよう」
水の魔道具以外を示し試させる。
(魔道具があれば、適正属性を鍛えることができるはず。初めての教え子だ…それぐらいのサービスはいいだろう……だが、水の魔道具はあげられない…シャワーは俺の生命線だ)
「え、くれるの……?が…がんばるよ…」
「ああ…まずは、魔力…熱を感じることから始めるんだ」
「わ…わかりました…先生」
それから、日が暮れるまで練習を見守り、なんとか光の魔道具を起動することに成功する。意外と筋がいいのかもしれない。約束通り、光の魔道具を渡す。
「おめでとう…これから毎日持ち歩いて、起動させるんだぞ。使えば使うだけ、魔力量が増えるはずだ。光魔法を覚え得たとき、撃てる回数が変わってくるぞ」
「ありがとう、先生!これから毎日がんばります!」
「おう!励めよ」
「はい!」
「よし、じゃあ帰るか…」
辺りが暗くなってきたので、2人で村まで帰る。
「魔道具ありがとう先生。おかえしがしたいので、今日のところであしたも待っててくれると嬉しいです」
「おかえし…?別に気を使わなくていいぞ…まあ…明日は昼前にここを出ようと思うからそのくらいでいいか?」
「はい…じゃあ、おひるまえに!本当にありがとう!大事にします」
そう言い残し、アイクは自分の家に帰っていった。
(これが教えるということか…なんかリズ、ニア、スフィアに無性に会いたくなった……)
翌日、寝具が最高だったと伝え、宿を出る。昼前まで、雑貨などを買い集めてから、待ち合わせ場所まで移動する。
(来ない…)
昼を過ぎるが、アイクは一向にくる気配がなかった。
(なんかあったのか?一度村まで戻ってみるか…)
心配になり、村まで戻ると少し前とは雰囲気が違うことに気づいた。
(緊急事態ってことはなさそうだが、なにかあったのは間違いなさそうだな)
昨日、アイクと別れたところまで向かうと、アイクが家の前で座り込んでるのに気が付いた。近づき声をかける。
「大丈夫か…?」
「せんせい…」
アイクが声に反応し、上を向く。その顔は今にも涙が溢れそうだった。
「なにかあったのか?」
「うん…父ちゃんが…」
「…」
「…父ちゃんが……死んじゃった………」
「…」
「手紙が来たんだ…母ちゃんがそれを読んで…父ちゃんが死んだって…」
「アイク…」
「せっかく先生に教えてもらったのに…これから毎日がんばろうとしてたのに…」
「ああ…」
「意味なぐなっちゃっだ…」
アイクの涙が溢れだす。俺はアイクの頭を抱きしめることしかできなかった。
(自分は戦争とは関係ないと考え、生きてきた。食いぶちがなくならないように、できるだけ長引けとも考えてもいた。要するに、俺にはアイクを慰める資格がないのだ…)
唯々、アイクが泣き止むまで待つ。
「せんせい…」
「ああ…」
アイクを離し、隣に座る。
「僕もう…父ちゃんと…戦争行けないや……」
「戦争なんて行くもんじゃない…」
「でも…国が勝たないと豊かにならないよ…」
「負けた国はどうなる?そっちは貧しくなるぞ」
「……よくわかんないよ…」
「今はそれでいい…でも、考えて行動しないと、いずれ取り返しのつかない事になる」
「取り返しのつかないこと?」
「戦争に行くってことは、誰かのアイクの父ちゃんのような存在を殺しに行くってことだ」
「…」
「今もどこかで戦争は行われていて、誰かの大事な人が死んでいる」
「でも…」
「自分とは関係ない…俺も今までそう考えて生きてきた。けど、すり減っていくんだ戦場は…」
「減っていく……」
「ああ…それがなんなのかは、俺も分からない…」
ついこの間、仲間を囚われてから救うまで、世界の色が失われていた。それは、きっとすり減ってなくなってしまった状態だったのだろう。
「俺、どうすればいいの?」
「守れ……大切な人がいるうちは……」
「まもる…? …大切な人……かあちゃん……」
「そうだ…アイク…強くなるんだ…もうこれ以上幸せを奪われないように…奪わないように…」
「強く…奪わないように……」
「ああ」
俺はアイクの頭を撫で、立ち上がる。
「もう、行っちゃうの?」
「アイクと同じように大切な人を失った人がいる。その人に手紙を届けに行くんだ」
「…」
「いつまでも、待たせるわけにはいかない……」
「…じゃあ……はやくいかないとだね………そうだ…これ…」
「なんだ?」
アイクがポケットからペンダントを取り出す。綺麗な結晶がついている
「昨日言ってた、おれーだよ。綺麗に磨いたんだ」
「ありがとう…大切にする…」
「俺ぜったい強くなるよ」
「体も魔力も鍛えるんだぞ…約束だ」
「うん…約束…」
「じゃあな…」
「ばいばい…せんせい…」
新たな約束を胸にペンダントを首に下げ、村を出る。
(弱いと奪われる。奪われると奪い返すことに固執するようになる。もう、帰ってこないと知っていても……まだ、アイクは大丈夫だった…でも、俺はダメだった…アイクにあんなことを偉そうに説いておきながら……それが奪う行為であると知ってもなお……)
(俺の心はずっと復讐で染まっている……家族を奪われたあの時から…)
(アイクは守るため、俺は復讐のために強くなる……)
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