第25話

翌日、魔法をぶっ放すために村より少し離れた野原に来ていた。

昨日はフカフカのベットで快適な睡眠をとることができた。一日中寝ていたかった。


ここ数日は魔力を鍛えるため4時間置きに魔法をぶっ放していたのだが、村に入ってからはできていなかった。村で所かまわず魔法をぶっ放していたらとんだ異常者だ。すぐに討伐されてしまう。だが、魔法はぶっ放したい。その禁断症状を抑えるためにここまでやってきた。


ちなみに、今日は村を出ず、休息日にした。移動で走りすぎたせいで、俺の体はボロボロだ。

体はボロボロなのに魔法はぶっ放したい。とんだ魔法中毒者がここに爆誕してしまった。


魔法をぶっ放すのに一番気持ちいいのは、俺が考案した魔法の多重発動だ。俺以外の魔法使いが使っているところは見たことないので、多分俺が世界で最初に考案した。俺以外の誰かが起源を主張しようが、ぶっ〇してでも俺が考案したことにする。それくらい愛着がでてきた。その多重発動もこの10日間でいろいろ検証しているうちに進化させることができた。


今までは、両手の掌と手首の4つの魔法陣を用いた4重発動が最高威力であった。今ではそれに加え同時に魔法も放つことができるようになり、魔法と魔術を合わせた6重発動ができるようになった。正直、過剰威力過ぎるがぶっ放すには一番気持ちいい。

だが、今はそれが戦略的にできなくなっている。普通に使用魔力238の6重発動は使いどころがないからだ。黄色い闘気使いは3重発動で倒すことができるから、片手で事足りる。なので、右は近距離で高威力のウィンドカッター、左は遠距離で中威力のウィンドバーストの魔法陣にし、臨機応変に対応できるようにした。さらに、最大魔力量が少なく使ってなかったウィンドアーマーの併用もできるように将来に向け練習した。


ということで、今日もウィンドカッターとウィンドバーストをぶっ放す。


「ウィンドカッター、ウィンドバースト」


野原に暴風が吹き荒れる。


(ふー、今日も完璧!これが際限なく撃てたら最強だな)


自分の魔法に酔いしれていると、後ろから歓声が聞こえた。


「すっげー!」

(人がいたのか、子供か?)


歓声をあげた8歳くらいの男の子が近づいてきた。


「おまえ魔法使いなのか!すげー!初めて見た」

「すげーだろ、危ないから離れとけよ。巻き込まれるぞ」

「もっかい見せてくれるのか!」

「ああ…はなれろ、はなれろ」


手で子供に離れるように促してから、魔法を放つ。


「ウィンドカッター、ウィンドバースト」


再度、野原に暴風が吹き荒れる。


「すげー!」

(子供に俺の多重発動を褒められるのは嬉しいもんだな…ライに褒められてもうざかっただけだが、子供からの賞賛はなぜか心地よい)


「よし!」


魔力をほぼ使い果たしたので、いったん村に戻ろうと立ち上がる。


「なんだ?もう終わりなのか?」

「魔力がなくなったからな、また今度だ」

「えー…」

「夕方になったらまた来るよ」

「分かった…まっててね…」

「ああ」


子供と別れ、今日も同じ宿を取り夕刻までベッドで横になる。


(自分の研究結果を褒められているようで気持ちよかったな…ラゴーアで合流したら子供たちにも見せてやろう。ふぁー…だんだん眠くなってきた…一応約束だ…アラームかけて忘れないようにしよう……)




『設定時刻になりました』


アラームに起こされる。案の定、いつのまにか寝てしまったようだ。まだ、疲れが溜まってるのだろう。

野原に行こうと宿を出ようとすると声をかけられた。


「どっか行くのかい?」

「ちょっと散歩に…すぐ戻ると思う…」

「そうかい…午前中南のほうですごい暴風が吹いたらしい。大丈夫だとは思うけど、気をつけな」

「……ああ……」

(十中八九、俺が原因だろう……明日…この村を出るか…)


見つかっても、おそらく大丈夫だろうが、羞恥心から明日村を出ることに決めた。ゆっくりしていると、首都が戦場になるかもしれない。


「よう」

「あ!おそいよー」

「わるいわるい…」


野原に行くと、少年が先に待っていた。挨拶を済ませると、少年から離れ魔法陣に魔力を充填する。


「では早速…ウィンドカッター、ウィンドバースト」

「やっぱ、すげー」


野原に暴風が吹き荒れ、子供が歓声をあげる。


「俺にもいつかできるようになるかな?」

「教会にお金を払えばできるさ」

「お金? お金かー…どのくらいかかるんだろ…」

「分からん…いっぱい働いていっぱい貯めるんだ…」

「そっかー…」


正直にいうとお金を貯め魔法を覚えても、撃てる回数は魔力量次第で初期値で1〜4発程度だ。威力も多重発動している俺と比べて低くなるが、今教えて絶望させることはないだろう。この子が、俺並みに賢くて、低魔力高出力な魔法運用を思いつくかもしれない。若い目を積むことはないのだ。


「んじゃ…もう一発…ウィンドカッター、ウィンドバースト」

「ほぇー」

(うん…問題ない。きょうも見事な多重発動だ)

「なぁ、兄ちゃんはこんな魔法使えるなら、戦争で大活躍じゃないか?」

「……さあな…」

「戦争行ったら、きっとむそうーできるよ!」

「無双か……戦場はそんな甘くはない…すぐ死んじまうよ…」

「そっかー…兄ちゃんでもそうなのか…父ちゃん大丈夫かなー……」

「戦争に行ってるのか?」

「うん!大活躍してくるって……活躍しなくてもいいからちゃんと帰ってきてほしいな……」

「そうだな……」


「父ちゃんそそっかしいからさー……いつか俺も戦争に行けるようになったら、魔法をバンバン撃って、敵をばったばった切って父ちゃん助けてやるんだ!」

「それは………いい心がけだな…」


(「それは難しいんじゃないか…」そんな言葉が出掛かり、思いとどまる。戦争は簡単じゃない。けど、この子にそんなことを教えてどうする…)


「だから、速く強くなりたいんだー」



(強くなりたいか……理由は違うが強くなりたいのは、俺も一緒だ……少し手助けしてみるか…適正があればいずれ強くなるはずだ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る