第23話 拒絶の剣、誇りの盾

空が重たく曇っていた。


 まるで何かの前兆のように、風が村の木々をざわめかせる。


 健司が畑の見回りを終えて帰ろうとしていた、そのときだった。見張り台の鐘が高く鳴り響いた。


「――来たか」


 健司は息を飲み、足早に村の広場へ向かう。


 その場所にはすでに、数名の騎士が整然と並んでいた。鋼の鎧に身を包んだその姿は、隣国の王国軍――ルゼルがかつて仕えていた国の兵だ。


 彼らの前には、ひときわ威圧的な男が立っていた。銀の鎧に紫のマント。その額には王国の紋章を刻んだ飾り。


「王国将軍・ドリアス……!」


 ルゼルが唸るように名前を呼んだ。


 ドリアスは一瞥するだけでルゼルに気づき、薄ら笑いを浮かべた。


「ルゼル。まさか、貴様がこんな辺境の村にいるとはな。しかも……健司王とともに、とは」


「王ではない。健司は――この村の一人にすぎない」


 冷たい声で言い放つルゼルに、ドリアスは肩をすくめた。


「降伏を勧告する。元王・健司と、その協力者たちは王国の保護下に入れ。抵抗するならば――この村ごと粛清する」


 その瞬間、空気が変わった。


 ルゼルが一歩前に出た。鋭い視線がドリアスを射抜く。


「ふざけるな。ここは、平和を望む人々の村だ。剣で脅す者に、明日を語る資格などない」


 ルゼルの背後から、氷の気配が立ちのぼる。


 カリナが氷の槍を構え、静かに告げた。


「帰って。私たちは、あなたたちの命令に従う気はない」


 アイリもまた、結界符を手にしながら前へ出た。


「これ以上、村の人に恐怖を与えさせない」


「――ふむ。では、力で理解させるまでだ」


 ドリアスが手を上げた瞬間、背後の兵士たちが一斉に剣を抜いた。


 緊張が広がり、村の広場に静寂が満ちた――その次の瞬間。


 氷の矢が風を切って飛んだ。先手を取ったのはカリナ。


 兵士の一人の足元に突き刺さり、凍てつく氷が一瞬で地面を覆う。


「撃てッ!」


 ドリアスの声に、矢が放たれた。


 しかし、次の瞬間、淡い光の壁が矢を弾いた。アイリの結界だ。


 「健司を連れていくなら、私たちを倒してからにしなさい!」


 ルゼルの剣が抜かれる。その煌めきは、まるで稲妻のように鋭かった。


 瞬く間に彼女は前線へ突っ込み、兵士たちを次々と剣で押さえ込んだ。


「くっ……!」


 ドリアスが剣を抜き、ルゼルに斬りかかる。火花が散る。


「王の犬が……その剣で何を守る!」


「理想だ。そして、友だ!」


 ルゼルは応じた。激しく打ち合う剣戟が、広場に響き渡る。


 アイリは防御と回復を担当し、村人たちが安全な場所に避難するよう導いた。


 一方、カリナは精密な氷の結晶で足止めをし、地形を味方につけて前線を支えた。


 圧倒的な戦力差――だが、ルゼルたちの意志の力が、それを覆していた。


* * *


 やがて、戦況は膠着し始めた。数に勝る王国兵だが、彼女たちの連携と魔法は予想以上に強固だった。


 ドリアスは剣を収め、憮然とした表情で言った。


「……これ以上は無駄な流血になるだけだな。だが、これで終わりと思うな」


「こちらの言葉だ。今後二度と、この村を脅かすな」


 ルゼルが静かに告げると、ドリアスは冷笑し、兵を引き連れて引き下がった。


 その背が見えなくなった時、ようやく皆の力が抜けた。


 健司が駆け寄り、彼女たちを見回す。


「みんな、無事か?」


「……平気。ちょっと疲れたけど」とアイリが微笑む。


 カリナは肩を回しながら言った。


「ふぅ……やっぱり、戦場は性に合わないわ」


 そして、ルゼルは疲れを隠すことなく、健司に目を向けた。


「健司。もう迷っている暇はない。あなたがこの村の中心に立ち、守る覚悟を決める時だ」


 健司は、静かにうなずいた。


「わかってる。みんなを守るって決めたから」


 曇っていた空に、少しだけ光が射し込んでいた。

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