第22話 守るということ
村の空に朝日が昇る頃、健司は腰に道具袋をぶら下げながら、村の東の外れへと歩いていた。
昨日の会議で決まったとおり、まずは東側の斜面を活かして、仮設の防壁と結界の起点を作ることから始めるのだ。
山に囲まれたこの村は、自然の要塞のようでもあるが、逆に言えば、誰かが本気で侵入しようと思えば、谷間を抜けて来る可能性もある。
「それでも、この村を守りたいんだ。俺たちの手で」
健司は手にしたシャベルを握りしめた。
現場にはすでに、ルディオが来ていた。朝露に濡れた草を踏みしめながら、彼はゆったりとした動きで土を掘っている。
「おはよう、健司。いい朝だね」
「おはよう、ルディオ。……それにしても、お前が土木作業してるのって、妙に新鮮だな」
「はは。僕だって、できることはやるさ。幻覚の結界を張るには、拠点になる杭を埋め込む必要があるしね」
ほどなくして、カリナとアイリもやって来た。
「おはようございます」
「おはよう、二人とも。準備、できてるか?」
「もちろん。魔力を練っておいたから、氷の基礎結界もすぐに張れるよ」とカリナ。
アイリは小さな袋から、自作の結界符を取り出した。
「これは村の子たちと作ったの。簡易だけど、一定範囲で外敵の気配を感知できるわ」
「すごいな……」
健司は素直に感嘆した。
仲間たちは、それぞれのやり方でこの村を守ろうとしている。どれも小さな力だが、重なれば、大きな盾になる。
その日から数日間、防壁と結界の設営は急ピッチで進められた。
村人たちも積極的に協力してくれた。木を切り出す者、結界の印を刻む者、食事を差し入れてくれる者まで。
健司は村の人々とともに汗を流し、笑い合い、時に失敗を重ねながらも、少しずつ完成に近づけていった。
* * *
「やっぱり、仲間と何かを築くって、いいものね」
ある日の作業終わり、カリナがぽつりとそう言った。
夕暮れに染まった空の下、防壁の影が長く伸びる。作業小屋に戻る途中、健司は彼女の横顔を見つめた。
「昔も、こんなふうに笑っていたこと、あったか?」
「あったよ。私たちは仲間だった。……でも、いつの間にか、君は心を閉ざしてしまった。私は、それが許せなかったの」
「……ごめん」
「もういいの。今の君を見れば、わかる。君は変わった。今の君は、昔の君よりも……ずっと人らしい」
その言葉に、健司は少しだけ肩の力を抜いた。
そこへルディオが、泥だらけの顔で走ってきた。
「健司ー! アイリが北の森で小動物に襲われてるって!」
「なっ……!」
3人はすぐに駆け出した。
北の森の奥では、アイリが木の根元にしゃがみ込み、小さな獣を手でかばっていた。目の前には、威嚇するようにうなり声を上げる大型の狼――魔獣だった。
「アイリッ!」
「来ちゃダメ!」
健司が飛び出そうとした瞬間、カリナの氷の矢が、魔獣の前に突き刺さった。ルディオの笛が高く鳴り、幻影の壁が出現する。
その隙に健司は駆け寄り、アイリを抱き寄せるように守った。
「大丈夫か……!」
「うん……この子が怪我してて、守ってあげようと……」
アイリの腕の中には、小さなリスのような魔獣が震えていた。
「まったく……お前は、本当に優しすぎる」
健司はそう言って微笑み、魔獣を抱えたまま、そっと森を後にした。
* * *
夜、焚き火を囲んで、4人は並んで座っていた。
「防壁も、結界も、まだ完璧じゃない。だけど……こうやって、誰かを守るって気持ちを共有できるなら、きっと乗り越えられると思うんだ」
ルディオの言葉に、みな黙ってうなずく。
カリナが小さく笑った。
「昔は、力だけで築いた絆だと思ってた。でも……違ったのかもしれない。今のほうが、ずっとあたたかい」
アイリも言った。
「わたし、この村でみんなと生きていけて、幸せです」
「俺もだよ。ここが、理想の国なんだ」
焚き火がはぜる音が、静かな夜空に響いていた。
その炎は、小さくても、確かに村を照らしていた。
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