未踏のピッチ
中村家、練習後
中村ハヤトは包装紙を破り、中から出てきたスリックなピッチャーズグローブを見た。心の中で通知が点滅した:全てのピッチでコントロール+5。彼は口をぽかんと開けた。「何だこれ!?」
母ちゃんが首を傾げ、目に心配の色を浮かべた。「どうしたの? 気に入らなかった?」
「嫌いじゃないけどさ、俺ピッチャーじゃないよ」とハヤトはどもりながらグローブを掲げた。「これ、ピッチャーのグローブだろ。」
父ちゃんは顎を撫で、動じずに言った。「じゃあ、返品して別のグローブに交換してみるよ。どんなのが欲しい?」
「俺、外野守ってるから、外野用のグローブがいい」とハヤトは答え、頭をフル回転させた。
父ちゃんが頷き、グローブに手を伸ばした。「それでいいか? もし違ったら、明日お店に持って帰るぞ。」
ハヤトは一瞬考えを巡らせた。(ちょっと待て…システムってピッチングも向上させられると言ってたっけ? 考えてもいいのか?)グローブを手に弄びながら、母ちゃんと父ちゃんを見た。「ごめん、このまま使うよ。ありがとう、母ちゃん、父ちゃん。」
父ちゃんが眉を上げ、肩をすくめた。「お前が決めるならいいよ。ただ、後でまたグローブを交換しろなんて言うなよ。分かったな?」
「うん、ありがとう。大事に使います」とハヤトは薄く微笑んだ。
母ちゃんの表情が和らぎ、優しい声で言った。「野球に頑張ってるのは分かるけど、学校の勉強も疎かにしないでね。」
「分かったよ、母ちゃん。プレゼントありがとう」とハヤトは感謝を込めて答えた。
後で、彼はベッドに寝転がり、新しいグローブを手に嵌めてシステムでピッチングのステータスを確認した:
• 速球の速度: 12
• 速球のコントロール: 10 + 5
• 速球の変化: 8
(これ、めっちゃ弱いな。考えた自分がバカみたいだ。)彼は眉を寄せ、天井を見つめた。すると新たなアイデアが閃いた。(待てよ…1日に肩を痛めずに投げられるピッチの数は? もし1日300球の速球を投げられれば、いつか強みになるかも…)やる気が出て、ベッドから飛び起き、装備を掴んだ。「くそっ、寝る前に速球を投げてみて、どうなるか見てやろう。」
中野公園、深夜
薄暗い公園の照明の下、ハヤトは壁に向かって新しいグローブでピッチを投げた。(ひどいな。ボールがバラバラに飛んでく。こんなグローブでもコントロールが最悪だ。情けない。)額の汗を拭い、投げるたびに構えを調整した。100球投げた後、画面が点滅した:100球の速球を完了しました。アップグレードする項目を選んでください(速度、コントロール、変化)。
(うーん、どれにしよう? 変化は後でいいかな…速度かコントロールか?)一呼吸置き、自分に頷きながら息を整えた。鈴木のピッチの記憶が蘇り、(やっぱり速度にしよう。速度はどんなに頑張っても自然には身につかない。でもこのシステムなら活かせる。)速度を選び、投球を続けた。250球あたりで右肩に違和感が走った。腕を回して痛みを確かめながら顔をしかめた。(あっ、痛みが出てきた。まだ大丈夫だけど、安全策を取った方がいい。1日300球は厳しいな。ルーチンに追加するなら耐久力も上げないと。)ため息をつき、荷物をまとめた。(とりあえず家に帰ろうか。)
その頃、中野高校 指導者室、深夜
指導者室の静寂の中で、山田カントクが背もたれに寄りかかり、ため息をついた。「井上カントク、正直言って今日の2軍は印象に残らなかったよ。」
井上カントクは頷き、諦めた表情で答えた。「分かります、山田カントク。1軍との実力差は明らかでした。選手たち自身も感じてると思います。」
山田の視線が鋭くなった。「それでも、粗削りな才能がいると思ってるよ。うちのチームに長年欠けてたものだ。」
井上は眉を寄せ、疑わしげに言った。「才能? 毎日見てて特に目立った子はいないけどね。」
「最近、変化はなかったか?」山田がさらに尋ねた。
井上はこめかみを揉みながら考え込んだ。「加藤涼太のカッター以外は特にないかな。今日まであいつがそんなピッチを持ってるなんて知らなかった。試合作戦で隠してたみたいだ。」
山田はゆっくり頷いた。「あのピッチには驚かされたけど、うちの選手が対応したよ。キャプテンについてはどうだ?」
井上は瞬きした。「キャプテン? 山本リクのことですか?」
「いや、センターだ」と山田が訂正した。
「あ、それは中村ハヤトです。キャプテンじゃないですよ」と井上が言い、少し間を置き、考え込むように頷いた。「そういえば、最近声が大きくなってきたね。昔は静かで、一人で黙々と練習して、みんなより長く残ってたけど、結果は上がってない。本当にかわいそうだよ。」
山田の目が興味深く光った。「それが足りてないんだ。毎年才能はあるけど、這い上がってきた選手はいない。もし彼の努力が伝染すれば、チームは次元が上がる。甲子園も夢じゃなくなる。」
井上はためらった。「その意図は分かるけど、あの子はまだ未熟だよ。」
「大丈夫だ」と山田は決然と頷いた。「何とかするよ。明日、ハヤトと加藤を1軍のグラウンドに連れてこい。」
「了解しました」と井上が答え、かすかな希望を帯びた声で応じた。
中野高校グラウンド、翌日
ハヤトは早めに着き、すでにバットの素振りルーチンに入っていた。斎藤タロウが彼を見つけてニヤリとした。「あいつ、またやってる。負けてられないな…」
タロウはハヤトが素振りを終える頃に近づき、言った。「おい、そんなに頑張ると壊れるぞ。」
「大丈夫だよ」とハヤトは汗を拭いながら答えた。「予選がすぐそこだから、怠けてられない。」
タロウは肩をすくめた。「でも、試作の結果もまだ分からないだろ。」
「だからってやめる理由にはならない」とハヤトは決意を込めて反論した。
タロウはくすくす笑った。「まあ、まあ、マゾい性格は止められないか。」
ハヤトが素振りドリルを終え、ピッチングも試してみようと決めた。「ねえ、タロウ、速球をキャッチしてくれる?」
タロウの目が丸くなった。「速球? いつからピッチャーになったんだ? 待てよ、それピッチャーのグローブだろ。頭おかしいんじゃないか。諦めろよ。」
「頼むよ、練習前にちょっとだけ」とハヤトがせがんだ。
タロウはため息をつき、折れた。「まぁ、ちょっとだけな。」
ハヤトはマウンドに上がり、構えを整えた。「準備できたか、タロウ? いくぞ!」
タロウはホームベースにしゃがみ、「さっさと投げろよ」と呟いた。ハヤトが優雅に腕を振り上げると、タロウの目が見開き、驚きの声を漏らした。(まさか…)投げられた速球は遅く、右に大きくそれ、ほぼワイルドピッチだった。タロウはなんとかキャッチし、心の中で思った。(マジか…)
「悪かったな、タロウ」とハヤトは頭をかきながら叫んだ。「ホームがマウンドから遠く感じるよ。」
タロウは目を丸くして、心の中で呟いた。(何だよ、その言い訳。バッターボックスからだって同じ距離だろ!)
朝の空気を切り裂く声が響いた。「おい、中村!」ハヤトは振り返り、グラウンドの遠くから近づく人影に心臓が跳ねた。チームがざわめき始め、視線がそのシルエットに集中した。(これが…?)空気が緊張感で張り詰め、人影が近づくごとに未来を変える瞬間が近づいているような予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます