036

 黒いスーツに身を包み、僕達は今、止まり木の会の侵略者だけが集まる会議場の前で武装をしながら立っていた。


 カービンアサルトライフル一丁にサブマシンガンが二丁にフルオートハンドガン二丁を肩と背中と腰に掛けて。おまけに手に持っているバッグにはプラスチック爆弾が入っている。


 これが僕の装備であるも、こんなのは唯の飾りだ。何て言ったって僕にはツェペシュがあるのだから。


 横に居る芽衣ちゃんはフルオートショットガンを片手にサングラスを掛けて、同じくスーツ姿で渋い内容となっている。


「よし、お主ら行くぞよ」


 そしてこの作戦においての参謀長である、アンリはモシンナガンを片手に僕達へ合図する。


「いや、お前のその銃って古いやつだよな?」

「我!シモヘイヘなり!」

「確かにお前なら白い死神だろうな」


 白髪だし。


「お二人共余り大声を出すと勘づかれますよ」


 芽衣ちゃんが人差し指を口に当てて、静かにの仕草をする。


 どうしてこんなことになっているのかと言うと。それは御影さんのお葬式の後の話になる。



 硝煙が上がり終えて、僕達は御影さんと最後のお別れをしてから、会場の二階で見なれた面子で話し合いをしていた。


「つ、つまり御影のおっちゃんが実行犯だったって訳か」


 僕が頷くと、楽は力が抜けたか、座布団の上へとへたり込んだ。


「あんなに優しかったのに・・・」


 また祭ちゃんも御影さんが残した遺書を読み終わってから、落涙しながらも話に参加をしてくる。


 この場に居るのは、僕とアンリと祭ちゃんに楽に南霧さん。バッタは相変わらずの引きこもりで、芽衣ちゃんは親戚の人や昔の友人たちに挨拶に回っている。


 芽衣ちゃんは死亡届がでておらず、行方不明となっていたが、アースクラッシュ時は行方不明となると、もう死んでいるようなものとして、実質死亡という判を押されるのだった。だけど昨日に元の戸籍へと戻った。


 なので芽衣ちゃんがこのお葬式で御影さんの遺影を持っていた時は、皆、幽霊を見る目で見ていた。


「それで咲ちゃん。何か私に頼みたいことがあったんだっけ?」


 南霧さんも遺書を読み終えて訊ねてくる。そう、僕は南霧さんに頼みたいことがあるのだ。だけど。


 僕はチラッとアンリを見る。アンリはあい解ったと小声で言ってから、立ちあがる。


「祭! 楽! トイレ! 漏れる!」


 そう言って無理やりにも楽と祭ちゃんの手を引いて、この部屋から出て行ってしまった。あいつのキャラが僕の中では、いつでもお漏らししそうなキャラになってきているぞ。


「そう、そういう事か。侵略者絡みの話なんだね。それで一体私は何を手伝えばいいんだい?」

「さすが南霧さん察しがいい。これ見てください」


 御影さんの遺書と同じ封筒に入っていた紙束を南霧さんへ渡す。


「ほうほう、これは面白いね。あの人も最後には悪に一矢報いたかったのかね」


 南霧さんが目を通している資料。それは御影さんが残した止まり木の会の情報であった。


 アサシンとしてアイアンニートを裏切ったあの夜、御影さんはこの資料に書かれている復興都市の止まり木の会の集い場に居たようだ。


 この資料にはたっぷりとその場所の見取り図や、政治的なものや、物騒な破壊兵器やらが示されていて、どこをどう破壊すればすぐ壊れるなども書かれている貴重な資料である。


「その場所は昨日アンリと一緒につきとめたんですけど、どうやらその中に居る奴ら全員侵略者らしいんですよね」


 侵略者は名を持つ者の方が稀で、殆どが名を持たない侵略者だ。そいつらは能力は持つが、どれも同じような奴らで個体差がない。能力としてはザイガを持つだけ、それだけらしい。それだけと言ってもザイガを持っていたら人並ならぬ膂力を持っている訳なので、一般人からしたら強敵っちゃ強敵だ。ただ名前のあるザイガ持ちみたいに、特殊な能力を持っていないし変態もしない。


「つまり、そいつらを一網打尽にしたいと」

「そういうことになりますね」


 そして本日午後八時から止木の会の定例会があると書かれている。僕とアンリはその時を狙って諸悪の根源である侵略者共をこの世から消す弔い作戦を実行したいのだ。


「でもさ、私が手伝う事あるの? 宇宙人さんって私達人間の武器は効かないんでしょ?」

「説明は私がする!」


 と、南霧さんが疑問を投げた後にそれを受け止めたのは、今さっき出て行ったアンリだった。


「アンリ、二人は?」


 アンリが帰って来るのが早いので、一緒に連れて出た二人の姿が見えないので行方を訊ねる。


「祭に可愛いと二回言った、三回目を楽に言わせて。楽は祭に連れて行かれた」

「あぁ、ご愁傷様」


 祭ちゃんに可愛いと三回言うと、辛い現状から逃避する為に生れた人格が現れるのである。その人格はとっても非情と言うか、人を虐めるのが大好きと言うか。ともあれ、あまり関わりたくない人格であるのだ。


「それで説明ってなぁに?」 

「ほいほい、奴らに銃器は効くっちゃ効くよ」


 アンリの指は親指を立てて人差し指を伸ばして銃をイメージしているのだろう。それを南霧さんに向けてバンと口だけ動かしながら撃ち抜いた。南霧さんは胸を押さえて倒れる三文芝居で応対してきた。何やってんだこいつら。


「お前さ、同じ力じゃないと倒せないとか言っていたよな?」

「咲は小石でズォーダの腕ふっ飛ばしていただろ」

「そういえば」


 これって矛盾じゃないか。


「つまり、倒すことには至らないが、行動を無力化することはできると」

「ザッツライト!」


 今度は両手で同じ仕草をする。


 名前無し達は再生能力も程々であるから、銃器で無力化ができてしまうのか。


「分かった。だけどこれはお高く付くよ? 銃火器や弾薬。それに爆弾なんて、このご時世では手に入れるのは一苦労だからね。咲ちゃん、そのお金を払う余裕ある?」

「うぅむ」


 言われると確かにそうだった。タダより高い物はない。いつもの小物とは違う、銃火器や爆弾だ。そんな道具が仮にも平和な復興都市で簡単に手に入る訳もないし、僕が払える値段じゃないだろう。


「それは私が払います!」


 大きな声で襖を勢いよく開け放って入ってきたのは芽衣ちゃんだった。二人が帰ってきたのかと焦った。


「お身体でですか? それとも現金ですか?」

「なんてことを言うんだあんたは」

「げ、現金でお願いします!」

「芽衣ちゃんも律儀にちゃんと答えなくても良いんだからね、怒っていいんだよ?」

「あらあら咲ちゃん、せっかく手伝ってもらうクライアント様に大きい態度だねぇ。それで芽衣ちゃんはどのくらいの手持ちが?」


 南霧さんは現実的な話に戻すと、どこからともなくメモ帳とボールペンを取り出して、メモを取る動作にうつる。


「お、お父さんの遺書に書かれていた遺産の相続権と保険金でざっと数十


 芽衣ちゃんの口からは巨額な値段が漏れた。


「数十億って、一体どうやって」

「お父さん、アサシンの仕事のお金をずっと溜めていたらしいんです。それで私の持っている遺書には何故かそのお金を白銀さんと一緒に使うようにって」

「え? え? どういうこと? 御影さん芽衣ちゃんが生きていたのを知っていたってこと?」

「どうなんでしょうか、その一文は走り書きのようでしたので」


 芽衣ちゃんは不思議そうな顔をしている。走り書きとなると、よほど急いで書く場面であって、芽衣ちゃんが生きていると確信できている時に書いたはずだ。


 もしかしてトイレに行った時か? あの時に確信は持ててないけど、書いたのか。抜け目のない人だし、意外と演技派なんだな。


「まぁそれくらいあれば大丈夫だけど、他の遺族さんが黙ってないんじゃない?」

「大丈夫です。他の遺族、いないですから」


 なんという不幸な一族なのだろうか。偶に芽衣ちゃんは返事に困るような事を平然と言ってのけるのだが、聞いている僕達の気持を解ってほしい。


「それならいいや。というわけでお買い上げ~。今日中に用意するから任しておいて。後さ、芽衣ちゃん遺族がいないならば、住むところはどうするの?」


 メモ帳に色々と記入し終わった南霧さんの質問は妥当な質問だった。むしろ今まで一年どうやって過ごしていたのかは僕も気になるところだ。というか、用意するのが難しいって言っていたのに逡巡もせずに用意ができるって・・・後で値切ろう。


「え、えぇっと私、ずっと野宿してたんですけど、どこか良い場所あるんですかね?」

「ちょっと待ってね。野宿って女の子が一年間も!」

「やっぱりそんな反応になっちゃいますよね。大丈夫ですよ、寝床以外はちゃんとしていたので」


 もう驚き桃の木山椒の木も伐採されるくらいの驚きようだよ。寝床以外はとなると、寝床がちゃんとしていないのか。一体どこで寝ていたのだろうか、木の上や廃墟となったビルや家の中だろうか。


「咲ちゃん女の子の私生活が気になるのも解るけど、今は乙女の秘密をかき回している時じゃないよ」

「変な言い方しないでください。まるで僕が変質者じゃないですか」

「おや? そうじゃなかったかい? まぁまぁ咲ちゃんが変質者だろうが変態だろうが関係ない。芽衣ちゃんの住む場所は私が見つけておくからさ、今はその作戦のことに集中しようじゃないか」

「ありがとうございます!」


 芽衣ちゃんは感謝の気持ちをこめて四十五度前に傾いてお辞儀する。これも南霧さんの恩着せ返しだろうか。だとすると手口が巧妙すぎるな。


「はい! まだ私の説明終わってない!」


 見計らったようにアンリは手を上げる。


「説明って、銃器は効くで終わったんじゃ?」

「まだ決定的なことを言ってない。どうして銃器で私らを殺すことができないか」

「あぁ確かに気になる。そもそもそういう事は出会った時に言ってほしかったな」

「だって、そんなこと言ったら咲が私を裏切って世界の王へと君臨するかと思って」

「誰がするか!」


 僕は寝首を掻く古狸か。アンリからすると、最初に敵と認識していた僕は余り信用できなかったのだろう。


「それでね、私らの本体は薄いけどザイガの膜で守られているのだ。それはこの地球上の物質では破ることができないと言う訳。ただし同じザイガの力を宿した武器または身体ならば破壊できて、この環境に耐えきれず本体を殺せるってこと」


 自分の胸を守るようにアンリは抑えて言った。と言う事はアンリの本体も胸に居る訳だ。よく考えてみればそうだよな、心臓と交換して精神を支配するのだから、そこにあいつらの本体がいるだろう。


「じゃあ、武器を調達してくるから、午後七時に咲ちゃんの携帯にまた連絡するねー」


 アンリの説明が終わったと同時に、支度を瞬時にして、南霧さんはいつものように手を振りながら陽気に姿を消してしまった。


「そういえばアンリ、説明ついでに教えてほしんだけど。芽衣ちゃんってどうやって覚醒しているの? 僕はアンリの中継を得て覚醒しないといけないけど、芽衣ちゃんはその中継役がいなくない?」


 そもそもアンリが人間の姿に勝手になっているのも解明されていない。こいつが他の幼女から体を奪っている説も浮上したが、胸に傷跡がないので、その説は根拠なしとなった。


「え? 私は常時任意でザイガが使えますよ? 白銀さんは使えないんですか?」

「そうなの。使えない! 咲は特別なの! スペシャルなの!」


 アンリは芽衣ちゃんの前で飛び跳ねて、疑問の目を僕に向けさせるのを防いでいる。急にアクティブになったな。何か知られたくない事でもあるのか。キスか。キスの事か。偽アサシンだった時の芽衣ちゃんが見たキスシーンは大人アンリだったから良かったものの、こんないたいけな小さな少女としているとなると、世間一般では異常者扱いされる。


 そんな目を僕に向けさせまいとアンリなりの考慮の現れが今の行動か。なんて優しいんだアンリちゃん。


「そ、そうなんですか。主人公補正のようなものですかね?」

「だいたいそう!」


 ツッコミたいけど、ツッコミを入れたらアンリの気遣いを無視することになるので良くない。


「そうそうまだ僕の中には未知なる力が眠っているんだよ」

「そ、そうその通り!」


 またアンリは同じように指で銃を作ったポーズをして、僕と話を合わせてくれる。


 幼女アンリは人前では恥ずかしさを覚えてくれるから一安心である。大人の方は普通にぶっちゃけていただろうな。


「し、咲助けて!」


 話していると、楽が這いずりながら部屋に入って来る。喪服に踏み後がある時点で、祭ちゃんから命からがら逃げてきたのだろう。


「アンリ、逃げよう! 今の祭ちゃんは手がつけられない! 芽衣ちゃん、また後で!」

「台風が来る前に去る!」


 アンリの手を引いて楽を跨いでお葬式会場を後にした。去り際にアンリが楽を踏んでいたけど、鍛えているから大丈夫だろう。

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